雪降る夜に教えてよ。
歩く度に呼び止められて、さすがの桐生さんの営業スマイルに陰りが出来てきた頃……。

恰幅のいい外国人さんが両手を広げて近づいて来た。

その姿に桐生さんも少しホッとしているような気がして、英語で挨拶を交わしている彼のネームプレートを見て苦笑する。

【ウェルズ・ジェネレーションカンパニー ルイス・アームストロング】の文字。

どうやらルイスさんは、ウェルズグループの人らしい。

バンバンと桐生さんの背中を叩き、すごい歓迎ぶりだ。

そして二人は普通に英語で会話をしてる。

『待って。ルイ、ちょっと痛い!』

『悪い悪い。悪気はないんだ。ハハハハ!』

などと、海外のコメディを見ているのかと思うくらい妙なテンションでいる。
それから、後ろに控えた私をちらっと一瞥してから桐生さんを見た。

『こちらの日本人形みたいなお嬢さんは?』

に、日本人形!? 

『僕のアシスタントで、秋元早苗さんだよ』

桐生さんは乱れたジャケットを直してから、私を振り返る。

「こちらはウェルズ・ジェネレーションの最高責任者で、ルイ・アームストロング氏」

あれ。初めて紹介されたぞ。

ルイ氏はイキナリ私の右手をつかむと、ぶんぶんと振り回した。

多分、握手のつもりだったのだろう。
私が上下に振り回されなければ。

「オー……スミマセン」

と片言の日本語で、ルイ氏は私に謝り……。

『彼女は軽いな。ちゃんと食べているのかい?』

なんて話しながら桐生さんを振り返るけど……。

桐生さんは桐生さんで、ちらっと確認するように私を見てから、困ったように苦笑した。

申し訳ないけれど、このおっさん失礼だと思うな。

『きちんと食べています。あなたの力が強いだけです。それに、私は人形ではありません』

日本語ではなく私も英語で話しかけると、ルイ氏は一瞬キョトンとして、それから大声で笑った。

『やぁ。失礼! ここに来るアシスタントたちはあまり英語を話せないから、迂闊な事をした』

『僕のアシスタントは飾りではないので』

ルイ氏は鼻を鳴らしてから、私と桐生さんの肩を持って歩き出した。
……て、なになに!?

『きっとそろそろ疲れて、毒舌が出てくる頃だと思ってね! 助けに来たと言う訳だ。ユキは昔からそういうところは子供っぽいからな』

『それはどうも……』

疲れた様に言う桐生さんに、ちょっと笑う。

そしたら、桐生さんとルイ氏に見られた。

ど、同時になんですか。

『ふむ。笑うと可愛らしい。サナエはもっと笑うべきだな』

『彼女はおかしくもないのに笑いませんよ』

『今のは確実にユキが笑われたんだな』

や。笑いましたけど。
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