雪降る夜に教えてよ。
『しかし、笑わない日本人は珍しいな』

と言うルイ氏にムッとすると、それに気が付いた桐生さんがニヤリとした。

『ルイ。あまり変なことを言っていると……』

『偏見です。私は自分で笑いたいときに笑います』

出来るだけやんわりと言うと、気を悪くした風もなくルイ氏は豪快に笑う。

『なかなか良いアシスタントだ。ハッキリ意見する子はいいね!』

『いえ。彼女は普段無口ですよ』

はい。無口ですけどね。おしゃべりは普段から佳奈に任せまくってるし。

『まぁ、良い。少し建設的な話をしようじゃないか』

そう言うなり、唐突にルイ氏は新しい会社のソフトの話を始めた。

そうなると本当に専門用語だらけで、私にも理解しがたい。

こればかりは日常会話やビジネス英語の範囲外だしなぁ。今度、習おうかな……。でも、さすがに習う場所を探せるかなぁ。

そんなことをぼんやり考えていたら、桐生さんはルイ氏と話しながら受け取った資料に目を通し、そのまま私に渡してくる。

システムのプログラムなら私にも判る。

資料に目を通しながら、次々にファイリングして行った。

『ところでサナエ。君はそのプログラムソフトについてどう思うかね?』

ルイ氏に急に声を掛けられて、キョトンと彼を見上げた。

『うちの会社で、と言うことですか?』

『その通り。君個人の意見としてはどうだね?』

個人的に……か。

ちらっと桐生さんを見ると、涼しい顔で腕を組んでいる。

助け舟は出してくれそうもない。どうやら自分で切り抜けろと言うことらしい?

『プログラミングは多少と言うところで解りかねますが……うちのシステムとの互換性の面で難しい。と言うのは解ります』

桐生さんはイキナリ吹き出し、ルイ氏はやれやれと言う風に肩をすくめた。

『貴重な意見だ。ユキはビジネスになると、こちらに手のうちを明かさないからな』

あ。それはマズイ?

ちらっと見ると、気にするなと言う風に首を振る……から、いいか。

『あれで互換性がないとすると……こちらではどうだ』

などとルイ氏は、またまた次々とパンフや資料を出して来て、パタパタしながら全てのファイリングが終わった後、桐生さんはルイ氏と握手した。

『最終的な判断は会議にかけてからとなりますが、後ほど連絡をします』

手を離すと、ルイ氏は感心したように桐生さんを見つめて、それから微笑んだ。

『あのやんちゃ坊主がここまで成長するとはねぇ』

やんちゃ坊主、の言葉に顔を上げる。

ルイ氏と桐生さんは、昔からの知り合いなんですか?

『ハハッ! やんちゃ坊主はないでしょ』

『何を言う。人のブーツに蛙をいれるような子供は、やんちゃ坊主で十分だ』

うん。確かに十分だ。てか、そんな事してたのか。
< 118 / 162 >

この作品をシェア

pagetop