雪降る夜に教えてよ。
「終わったぁ」

「お疲れ様」

本当に疲れたぁ。

「秋元さんは、判断も打ち込みも早いね」

桐生さんはスッと腕を伸ばし自分の腕時計を見たので、私もつられて腕時計を見る。

「早いと言いましても、もう二十三時ですよ」

「ちなみに君、ひとりで三百件近くは返信しているからね」

数字を聞いて、さすがにげんなりとした。

もう、二度とやりたくない。

ちょっとやさぐれていたら、桐生さんは無言で立ち上がる。

「秋元さんは電車?」

窓の外を眺めながらの言葉に、眉をひそめた。

「はい……普段は」

「家はどの辺り?」

今度は首を傾げてマンションの場所を告げると、桐生さんは難しい顔で振り返る。

「電車は不通の地域じゃないか。バスは……この時間じゃ間に合わないだろう?」

「ああ。でも今日は地下鉄ですから」

「地下鉄……駄目だよ、遠いだろう」

なんか、紳士的なことを言われそうだ。

「平気ですから」

その言葉に、とても清々しい笑みを見せられた。

「女性を、こんな天候のなかで歩かせるのは気が進まないな」

やっぱり言うと思った。

桐生さんの隣に立って窓の外を眺めると、ちょっとした吹雪になっている。

「これくらいなら平気ですね。私は雪国育ちですから」

「いいから送らせなさい。襲わないから」

「そんな心配はしていませんけど」

単にひとりで帰れるし、ひとりで帰ったほうが気楽なんだけど。

男の人って女性に甘いって言うか“そうあるべき”という感じで押し付けてくる事があるよね。

全部が全部私みたいとは言わないけれど、そういう人も中にはいるんだと思って引き下がって欲しいんだけれどな。

そう思っていたら、返事がない事に気が付いた。

何故無言?

見上げると、どことなく複雑な表情が目に入ってくる。

「なにか?」

「や。何でもないけど」

「じゃ……お先に失礼しますね?」

テキパキと使ったパソコンを会議室から運んで、ブース内でコートとマフラーを身につける。

手袋をはいていた時に桐生さんが入って来て、深い溜め息をついた。
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