雪降る夜に教えてよ。
「急にそんな事するからです!」

「……珍しい。認めた」

ちょっと! どれだけ天邪鬼だと思われてるんですか。

「じゃあ、早く飲んで出かけようか。俺も一度帰って着替えないといけないし、このままいたら危険だし」

危険?

視線を上げたその先に何かが見えて、姿勢を正す。

これは私にも解った。

微笑んではいるけれど、キスをする直前に見せる真摯な視線。

どこまでも透明で、どこまでも深い、飲み込まれそうな輝き。

それが微かに見えた。

カチコチに緊張したら、桐生さんはフッと笑って、頬に触れていた髪をゆっくり耳にかけてくれる。

ちょっとやだ。くすぐったい!

「冗談だよ」

え?

「はい。ちゃっちゃとコーヒー飲んで」

「あ、はい」

言われた通りにコーヒーを飲み干して、カップをそのままシンクに置くと促されて桐生さんの車で美容院に向かった。





***



「あら、いらっしゃ~い」

磨りガラスを開けると、派手な花柄の桃色のシャツに、これまた派手なショッキングピンクのパンツをはいた藤色アフロヘアな男の人が振り返った。

「あらあら。隆幸ご無沙汰じゃない? 今日はカット? それとも……」

言いつつ、その人は桐生さんの影に隠れようとした私に視線を落とした。

「あらま。カワイコちゃん連れて」

ひぃっ!! 見つかった!!

桐生さんは私の肩をつかんで回転させながら、ピンクの人の前に立たせる。

「よろしく」

よっ……よろしくされても!!

「オーケィ。ベイビーちゃん、こっちへいらっしゃい」

暗雲立ち込めていそうな意味深な笑みにたじろぐ。

てか、なんでオネエ言葉なの? このかすれた太い声は明らかに男の人の声だけど。

「安心して、金谷は言動は変だけど、腕は確かだから」

「まぁ! キュウちゃんって呼んでって言ってるでしょう~?」

金谷さんはグイグイ私の腕を引きながらシャンプー台に連れてかれ、半ば強引に座らされると寝かされる。

「何時くらいに終わるかな?」

「そうねぇ。十五時くらいに来てちょうだい」

なんて、頭上で会話を交わされて。

「じゃ、頼んだな」

「任せてよダーリン」

えぇ! そんな、どこか行っちゃうんですか!? という心の声が顔に出ていたらしく、金谷さんはちゃめっけたっぷりに笑った。
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