雪降る夜に教えてよ。
「大丈夫よ~。貴方のダーリンは帰ってくるから」

「や。あの。ですね」

「取って食いはしないわよ~。いいから子猫ちゃんは落ち着いてシャンプーされてなさい」

有無を言わさない勢いで顔にガーゼを乗せられて……。

「まぁ! なんなのこのぱっつんぱっつんな定規カットは!」と、髪をカットされ。

「綺麗なストレートでもったいないけど、軽く巻いちゃいましょ」と、パーマをかけられ。

「赤じゃダメね。モーブかベージュが似合うわ~」などと、勝手にお化粧をされ。

「ちょっと、この飾り気のない手足をどうにかしてちょうだい! ベイビーちゃんは女なんでしょう!?」と、マニキュアとペディキュアまでされて……。



***



「うん。これなら場違いとか思わなくてすむかな?」

桐生さんが迎えに来た時には、私は少し外の景色に視線をさまよわせていた。

「何なんですか……あのエキサイティングな人は」

『Pure Color』と金箔で書かれた磨りガラスを振り返り、おおきく息をついた。

「面白い奴だろ。俺の中学の親友」

「あれが!?」

「そ。あれでも、中学の時は丸刈りの野球少年だったんだよ?」

「えぇ!? どうしてあんなになっちゃったんですか?」

「さぁ。俺が帰国して、同窓会で顔を出した時にはああなっていたから」

淡々としたその言葉に驚いた。

ああ。そうか。

たぶん桐生さんは詳しいことなんか聞かない。
ただ有りのままに受け止めて、普通に接するのだろう。
この人って、そういう強さと純粋さがあるよね。

「……にしても、化けたな」

「……ばけっ?」

「今の君と秋元女史と、同一人物だと気付く人間はいないだろうなぁ」

や、まぁ、そうかも知れないんですけど。

「他に言いようはないんですかね……」

ブツブツ文句を言ったら、ピタリと桐生さんが立ち止まったので、つられて私も立ち止まる。

「あるよ?」

指先でちょいちょいと呼ぶので、耳を寄せた。

「……食べちゃいたいくらいに素敵だよ」

そう言って、リップ音をさせながら頬にキスをされる。

道端でほっぺにチュウされた!

と、認識した途端に肩を抱かれて歩きだす。

「じゃ、次は俺の家ね。着替えるから」

などと言いつつ、車の助手席を開けてくれる。

ホント紳士的だよね。

だけど、桐生さんのうちか……。

なんとなく無言で車に乗り込むと、桐生さんも、なんとなく無言で車を走らせる。

「なんか緊張してる?」

しないわけは無い。

だって、桐生さんの『家』に行くなんて初めてだし。

「大丈夫だって。襲わないから」

……見透かされているし。
< 123 / 162 >

この作品をシェア

pagetop