雪降る夜に教えてよ。
「ここに居て」

お茶を渡されて苦笑する。

もう、こうなったら意地でも落ち着くしかないかな。

「ありがとうございます」

彼がちょっと困ったような顔で部屋に入るのを見届け、改めて部屋を眺めた。

確かに、シンプルな部屋だけど……ちょっと機能的過ぎる感じ?

落ち着けるけれど、暖か味はないというか。なんか、桐生さんの性格とはちょっと違うような。

おしゃれじゃない、とは言わないけれど、素っ気なさすぎる。

ああ。観葉植物とかもないんだ。

それが余計に寒々しいイメージ。

でも、無理もないかもしれない。

いつも仕事で残業残業で、家に居るとすれば休日くらいなものだろう。

私もシス管になってから、マンションには寝に帰っているようなものだし。

休日になったら『さぁやるぞ!』って感じに部屋の掃除とかするけれど。

桐生さんは男性だしなぁ。さすがに掃除機かけてる姿とか、窓ふきしてる姿とかは想像しにくいなぁ。

お茶を飲みつつ苦笑していると、着替え終わったらしい桐生さんが出てきた。

「なんか面白いことでもあった?」

笑っているのを見つかったらしい。

間違いなくオーダーメイドの黒っぽいスーツ姿に眩暈がしそうですけれど、それを悟られるのは癪に障る。

「……人の表情をすぐに読まないで下さい」

「読まないと会話にならないじゃないか」

「話すように心掛けますから」

「……判りやすくなったのになぁ」

そんなに表情に出るようになったのかな?

桐生さんはネクタイを締めながら、クスッと笑った。

「君は目に出やすいって言ったでしょ。まぁ、ルイの家までは結構かかるから、そろそろ行こうか?」

立ち上がり、飲みかけのグラスを手に持つ。

きれいなグラスに口紅がついたので、思わず親指で拭き取った。

「これは……?」

「ああ。はい」

桐生さんが手を出してきたからグラスを渡す。

まだ少し残っていたお茶をシンクに捨てると、コップをそのまま置いて水で流す。

今気が付いたけれど、桐生さんって指がきれい。

ピアニストみたいな長い指。

そのきれいな指は一度迷うように彷徨って、私の目の前にあった。

「こら? なにぼんやりしてるんだ?」

「指長いなぁって」
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