雪降る夜に教えてよ。
「秋元さん」

「はい?」

「いいから、本気で送らせなさい。浅井さんは来週には出てこられるようだけれど、この分だと、明日もシステムヘルプの子たちは来ないかもしれないし、君に風邪をひかれると、会社的にも困る」

うーん。そうなると明日も、今日と似たような数字を追わなくちゃいけないんですよね。

「マネージャーは安全運転ですか?」

その言葉に桐生さんはがっくりとして項垂れる。

「僕は海外の雪道でも運転した事があるから安心しなさい。今日は四駆に乗って来ているし」

「色々な所に居たんですか?」

「けっこうね」

桐生さんは言いながらコートを羽織り、パソコンケースとマフラーを手に持つと、それが当然のように、自然と私のためにドアを開けてくれた。

さてはイギリスにも居たのかも知れない。普通にエスコートしてくるよ、この人。

「何年くらい海外に居らしたんですか?」

「ん~……。高校からかな。親の転勤でね」

「……へぇ」

いつから海外で過ごし始めたのか、を聞いたわけではないんだけれど、まぁいいか。

そう思いながらエントランスに着いてボタンを押し、エレベーターの扉が開くと無言で乗り込む。

「秋元さんは? こっちにはいつから?」

「私はずっと日本にいますが、東京へは高校からです。全寮制の学校でしたから」

「じゃあ、結構、東京にも長いんだね」

「そうですね。そうなります」

「飲みに行ったりとかするかな?」

「たまには」

「今度、いいお店紹介してよ」

一緒に連れて行けと?

つまりは遠回りに飲みに行こうとでも誘われているの?

「土橋さんたちの方が、たぶんお店を知っています」

呟くような発言に、桐生さんはクスクス笑っていた。

「何かおかしな事を言いましたか?」

「いや。男性社員の噂を思い出していた」

噂ですか。小さな会社でもないから、噂なんてたくさんあるだろうに。

「秋元女史は誘っても絶対にノッて来ないって」

「のることもありますよ」

エレベーターが地下駐車場に着き、またまた無言で降りる。
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