雪降る夜に教えてよ。
そしてエスコートされるま、桐生さんの車の助手席に乗せられて、シートベルトを着けた。

運転席に乗った桐生さんから視線を外し、動き出した車のタイヤの音に耳を澄ませる。

「早く雪がやむといいですねぇ」

地下駐車場から出ると車の窓から外を眺め、思わず出てきた言葉に、桐生さんは前方を見つめたままで呟いた。

「雪は嫌い?」

嫌いではない。
どちらかと言うと好きな部類だと思う。

けれど……。

「仕事的にはやんでほしいところですね」

「あー……。まぁ、そうかもしれないね」

自然と沈黙が落ちて、桐生さんが何かのスイッチを入れると、スピーカーから音楽が流れてきた。

女性の綺麗な声で歌われている洋楽。

もともとは違う人が歌っていた曲。

いい曲って言うものは、こうやって残って行くものなんだろうなぁ。

そう考えているうちに、マンションについた。

「あ。ここです」

思っていた以上にゆっくりと車が停まる。

「有り難うございました」

シートベルトを外しながら、助手席のドアに手をかけた。

「ね、秋元さん?」

どこか静かな声に、不思議に思って振り返る。
桐生さんは少し迷った後で、小首を傾げて私を見た。

「さっきの話に戻るけど、君を飲みに誘うには、どうすればいいのかな?」

本当に飲みに誘いたいのかな?

私を?

ちょっと内心では驚いたけれど、冷静になって考える。

「彼女か奥さんを同伴してください」

「は?」

ビックリしたらしい声に、肩を竦めてドアを開けた。

「では、お気をつけて」

私は吹雪の中から声をかけ、助手席を閉めると、雪の中そのままマンションまで走る。

お堅い『女史』を誘うなんて妙な人だ。

そう思いながら、私は小さく、先程の曲を口ずさんでいた。









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