雪降る夜に教えてよ。
ただ、恭介さんがつないでくれた手は、とても暖かく優しかったと記憶している。
そして彼の家に着くと、恭介さんの奥さんは露骨に私を見て嫌悪の表情をした。
『僕がいつも忙しいから、あまりかまってあげれてないんだ』と恭介さんはそう言って苦笑した。
自然に笑いかけられることが初めてで、私はビックリしたのを覚えている。
恭介さんの笑顔は好きだった。暖かい手のひらも好き。
恭介さんは仕事の合間に、私をいろんな所に連れ出してくれた。
動物園や遊園地、水族館にプール。
無反応な私に、恭介さんは少し怒ったそぶりで腕を組む。
『早苗。こういう時には笑わないといけない』
そう言われて『何故?』と問うと……。
『それが子供の本分だからだ』といってまた笑った。
それから、数年後のクリスマス。
西川家はいつも“本宅”という所に集まることになっている。
私は中学二年になるまで行ったことはない。
いつも奥さんが嫌がるから、行きたくないと駄々をこねて留守番をするのが常だった。
ただ、今年はどうしても来いと恭介さんは首を振る。
恭介さんのお父さんが病気で、先は長くないかもしれないから……一目でいいから養女を見せたいと言い張った。
本宅は大きかった。
恭介さんの家よりもずっと古くて日本的だったけど、どっしりとして、どこか静かだった。
この時初めて綾と出会った。
たっぷりと甘やかされて育ち、命令ばかりするお嬢さん。それが第一印象。
私は綾に構わずに、その父親を見た。
汚いものを見るような目は、施設で里親になってきた人間と同じ目だった。
人間を人間として見ずに、野良犬か何かを見るような視線。
そんな視線にも正直慣れている。
そして私は一番奥の座敷に通された。
そこには、一人の老人が姿勢を正して座っている。
何が起こったのか解らない。
けれど、突然その人は突然激昂して、私と恭介さんを怒鳴り散らした。
文箱が飛んできて、私の頭に当たる。
よく解らないうちに、私は恭介さんに連れられるまま離れに来ていた。
『ごめん。早苗……ごめん』
何故か恭介さんは泣いていて、私にはその理由がわからない。
ポカンとしているうちに恭介さんに抱きしめられ、彼の涙が私の頬に触れた。
『親父は頑固なんだ。でも、君の事を嫌いなわけじゃない』
何を言っているかまったく解らなかった。
あの老人が怒ろうが、私には関係がない。
『愛してるんだよ。だけど、愛しすぎるとどうしようもないんだ』
そう呟いた声がとても優しくて、髪を撫でる手のひらが心地よくて、そのままにしていた。
心が温かくなって、その手が離れると、少し寂しさを感じる。
思えばこれが私の初恋だった。その思いは決して花開くことはなかったけれど。
そして彼の家に着くと、恭介さんの奥さんは露骨に私を見て嫌悪の表情をした。
『僕がいつも忙しいから、あまりかまってあげれてないんだ』と恭介さんはそう言って苦笑した。
自然に笑いかけられることが初めてで、私はビックリしたのを覚えている。
恭介さんの笑顔は好きだった。暖かい手のひらも好き。
恭介さんは仕事の合間に、私をいろんな所に連れ出してくれた。
動物園や遊園地、水族館にプール。
無反応な私に、恭介さんは少し怒ったそぶりで腕を組む。
『早苗。こういう時には笑わないといけない』
そう言われて『何故?』と問うと……。
『それが子供の本分だからだ』といってまた笑った。
それから、数年後のクリスマス。
西川家はいつも“本宅”という所に集まることになっている。
私は中学二年になるまで行ったことはない。
いつも奥さんが嫌がるから、行きたくないと駄々をこねて留守番をするのが常だった。
ただ、今年はどうしても来いと恭介さんは首を振る。
恭介さんのお父さんが病気で、先は長くないかもしれないから……一目でいいから養女を見せたいと言い張った。
本宅は大きかった。
恭介さんの家よりもずっと古くて日本的だったけど、どっしりとして、どこか静かだった。
この時初めて綾と出会った。
たっぷりと甘やかされて育ち、命令ばかりするお嬢さん。それが第一印象。
私は綾に構わずに、その父親を見た。
汚いものを見るような目は、施設で里親になってきた人間と同じ目だった。
人間を人間として見ずに、野良犬か何かを見るような視線。
そんな視線にも正直慣れている。
そして私は一番奥の座敷に通された。
そこには、一人の老人が姿勢を正して座っている。
何が起こったのか解らない。
けれど、突然その人は突然激昂して、私と恭介さんを怒鳴り散らした。
文箱が飛んできて、私の頭に当たる。
よく解らないうちに、私は恭介さんに連れられるまま離れに来ていた。
『ごめん。早苗……ごめん』
何故か恭介さんは泣いていて、私にはその理由がわからない。
ポカンとしているうちに恭介さんに抱きしめられ、彼の涙が私の頬に触れた。
『親父は頑固なんだ。でも、君の事を嫌いなわけじゃない』
何を言っているかまったく解らなかった。
あの老人が怒ろうが、私には関係がない。
『愛してるんだよ。だけど、愛しすぎるとどうしようもないんだ』
そう呟いた声がとても優しくて、髪を撫でる手のひらが心地よくて、そのままにしていた。
心が温かくなって、その手が離れると、少し寂しさを感じる。
思えばこれが私の初恋だった。その思いは決して花開くことはなかったけれど。