雪降る夜に教えてよ。
そのクリスマスの夜から恭介さんのうちはゴタゴタが続いた。
奥さんはいつも泣いていて、いつも微笑んでいる恭介さんは不機嫌だった。
『どうして奥さんはあんなに怒っているの?』
そう問うと、恭介さんは読んでいた難しそうな医学書らしい本から顔を上げる。
『さぁて。早苗が可愛いから嫉妬したんじゃないかな?』
『可愛いと言われるのは嫌い』
『何故?』
『施設にいる時も可愛いからと引き取られたけど、そのうち返されたし』
恭介さんは声を上げて笑って、私の頭に手を置く。
『外見は単にきっかけに過ぎない。君の内面もひっくるめて好きになってくれる人が、いつか必ず現れるから』
そう言って、優しく微笑んでくれた。
いつか……いつかなんて来るんだろうかと、この時に初めて思った。
そうしているうちに大晦日が近づいて、私は激化する夫婦のケンカを聞くに堪えず夜に出かけるようになった。
他人は他人のプライベートを覗いちゃいけないような気がしたから。
ただ、この日は冬空の癖に朝から雨が降っていて、空には雷が鳴っていた。
雪の降らない年越しにも慣れてきた。
でもどうせ年末には降るんだろうと思いつつ、恭介さんの家にいつもより早めに戻る。
恭介さんの家は『本宅』とは比べようもないけれど、かなり広い。
一階部分はほとんど客間かリビングで、私は自分の使っている部屋に戻るために階段を上りかけ……。
言い争いの言葉が聞こえたのは、その時だった。
階段の上でもみ合っている奥さんと恭介さんの姿。
奥さんの利き手にあるナイフに目を見開く。
何が起こっているか解らなかった。
二人は私に気がついて、奥さんがまず動いた。
何かを叫んでいたけれど、私には意味が解らない。
ただ、悪意があるのは解る。
『来るな早苗!』
一瞬のことだった。
押さえていた恭介さんの腕を奥さんが振り払う。
バランスを崩した恭介さんの身体が傾いで、私の真横を落ちて行き……。
彼の手には奥さんから奪い取ったナイフのきらめきが見えた気がした。
我に返って階下に走り寄る。
うつ伏せの恭介さんをあお向けて、それから初めて、私は顔をしかめた。
奥さんはいつも泣いていて、いつも微笑んでいる恭介さんは不機嫌だった。
『どうして奥さんはあんなに怒っているの?』
そう問うと、恭介さんは読んでいた難しそうな医学書らしい本から顔を上げる。
『さぁて。早苗が可愛いから嫉妬したんじゃないかな?』
『可愛いと言われるのは嫌い』
『何故?』
『施設にいる時も可愛いからと引き取られたけど、そのうち返されたし』
恭介さんは声を上げて笑って、私の頭に手を置く。
『外見は単にきっかけに過ぎない。君の内面もひっくるめて好きになってくれる人が、いつか必ず現れるから』
そう言って、優しく微笑んでくれた。
いつか……いつかなんて来るんだろうかと、この時に初めて思った。
そうしているうちに大晦日が近づいて、私は激化する夫婦のケンカを聞くに堪えず夜に出かけるようになった。
他人は他人のプライベートを覗いちゃいけないような気がしたから。
ただ、この日は冬空の癖に朝から雨が降っていて、空には雷が鳴っていた。
雪の降らない年越しにも慣れてきた。
でもどうせ年末には降るんだろうと思いつつ、恭介さんの家にいつもより早めに戻る。
恭介さんの家は『本宅』とは比べようもないけれど、かなり広い。
一階部分はほとんど客間かリビングで、私は自分の使っている部屋に戻るために階段を上りかけ……。
言い争いの言葉が聞こえたのは、その時だった。
階段の上でもみ合っている奥さんと恭介さんの姿。
奥さんの利き手にあるナイフに目を見開く。
何が起こっているか解らなかった。
二人は私に気がついて、奥さんがまず動いた。
何かを叫んでいたけれど、私には意味が解らない。
ただ、悪意があるのは解る。
『来るな早苗!』
一瞬のことだった。
押さえていた恭介さんの腕を奥さんが振り払う。
バランスを崩した恭介さんの身体が傾いで、私の真横を落ちて行き……。
彼の手には奥さんから奪い取ったナイフのきらめきが見えた気がした。
我に返って階下に走り寄る。
うつ伏せの恭介さんをあお向けて、それから初めて、私は顔をしかめた。