雪降る夜に教えてよ。
結局、一連の出来事に気が付いた家政婦さんが恭平さんに連絡し、そのおかげで私は生き延びた。

病院の個室で顔をしかめ、沈黙して病室に立つ恭平さんに目を向ける。

このまま恭介の家には置いて置けないと彼は言った。

普通そうだろう。置いておかれても私も奥さんもつらいだけだ。

私は東京の高校を受けることにした。

幸い、恭介さんが勉強を教えてくれていたので成績は悪くない。

全寮制の学校に行って、名前も母の姓に戻すと言った私に、恭平さんはホッとしたようだ。

恭介さんと恭平さんは顔は似ているが、性格は似ていない。

それを悲しくも、嬉しくも思った。


そして春には特待生で高校に入学する。特待生であれば奨学金も受けられて、学費などを心配せずにすむ。

要は成績を保てばいい。それなら願ってもないことだった。

暇になると私もあの夜のことを考える。考えないためには、何かに打ち込んでいれば気が楽だったのだと思う。

同じ学校に綾がいたのは驚きだった。
そして、私を目の敵にしているのがよくわかった。

あの子との接点はないに等しいのに。

下駄箱は草だらけになったり、砂だらけになったり、と忙しかった。

暴力に出ないのは、お嬢様育ちだからか……こんな些細な悪戯だと、怒る気も失せる。

怒ったのは隣のクラスの佳奈で、あの独特の柔らかい口調で、毒舌を披露する姿はある意味で面白かった。

それから佳奈は事あるごとに私に近づいて来るようになる。

勉強を教えてとか買い物にいくからついてきてとか、よく解らないうちに引っ張り込まれ意味不明だった。

とにかく、高校時代の佳奈は、今よりもパワフル。

人の気分も考えないで連れまわし、洋服や化粧を押し付ける。

『女の子なんだから』が口癖だった。

女の子は綺麗になるのが宿命で、運命によって決まっているのだと言い切るところが凄い。

その意味不明な運命に流されないように、私はこの頃から眼鏡をかける。
佳奈は憤慨していたけれど、最初だけでそれ以降は何も言わなくなった。

いつしか彼女の恋愛の相談に乗るようになり、男の子の心情について聞かれ、閉口することも多かったと記憶している。

惚れっぽいわけではないけれど、年中恋をしている佳奈。

失敗して大泣きしても、決して挫折をしない佳奈。

友情ならばいいかもしれない。そう思いながら……。

私は誰にも恋はしない。

この時に決めていた。
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