雪降る夜に教えてよ。
「はい。習い事が有りまして」
「今度は何の資格を取るの?」
「面白そうなものならなんでもでしょうか?」
表面上のみの会話ならできる。
わざとらしいくらいの素っ気なさで互いに応じて、エレベーターが一階に着くと開けるボタンを押す。
桐生さんはスッと横を通り過ぎ、私も後に続いた。
彼の後姿はあまり見たことはない。
いつも、私の後ろで見守ってくれていたから……。
そう考えてフッと苦笑する。
もう、考えても仕方がないことだ。
守衛室を通るとき、馴染みの警備員さんが私に気付いて声をかけてきた。
「おや。秋元さん、今日は早いですね」
「今日はって、この頃はちゃんと帰っていますよ?」
「あれ。だって、金曜は習い事なかったんじゃないのかい?」
ああ、そんな会話もしたんだっけ? 会話したことすら忘れている。
「金曜も習い始めたんです」
「今度は何を?」
「人間心理学の通信?」
「こりゃまた、けったいなものを……」
「昔、知り合いにカウンセラーがいたので、ちょっと興味がありまして」
そう言ってから手を振って歩き出す。
「ああ。秋元さん」
「はい?」
「風が強くて、雪も降ってきたから気をつけて」
もう? 私は瞬きをしながら社員入り口を開ける。
大粒の雪の結晶がドアの隙間から入り込んで一瞬息が詰まった。
酷い降りではないけれど、とにかく風が強い。鞄の中からマフラーを取り出して巻くと、社員入口から身を出した。
やばい。足元気をつけないと飛ばされそうだ。
手持ちサイズの長さに合わせたバックの紐を伸ばし、肩なら斜めに掛けてからゆっくり歩き出す。
ぼんやりと歩き続けて十分。結局向かい風に疲れて、近くのお店の軒先に非難した。
こういう時、免許があるとかなり便利かもしれない。もうちょっと時間がれば車の免許でも取ろうかな。
紫色の空を白い雪が横に縦に吹き上げられたりしていて忙しい。それを眺めていた時……。
「秋元さん?」
声のする方に顔を上げると、見覚えのある顔が目を丸くしていた。
「なんであなたは、いつも妙な時にいるんでしょう」
私の小さな呟きに、裕さんは苦笑する。
「妙も何も……ここ、僕の店だって知ってるでしょう」
言われてみて、以前、佳奈と来た店の前だったことに気がついた。
それにしても、この遭遇率はあまりないと思うんだけれど。
「今度は何の資格を取るの?」
「面白そうなものならなんでもでしょうか?」
表面上のみの会話ならできる。
わざとらしいくらいの素っ気なさで互いに応じて、エレベーターが一階に着くと開けるボタンを押す。
桐生さんはスッと横を通り過ぎ、私も後に続いた。
彼の後姿はあまり見たことはない。
いつも、私の後ろで見守ってくれていたから……。
そう考えてフッと苦笑する。
もう、考えても仕方がないことだ。
守衛室を通るとき、馴染みの警備員さんが私に気付いて声をかけてきた。
「おや。秋元さん、今日は早いですね」
「今日はって、この頃はちゃんと帰っていますよ?」
「あれ。だって、金曜は習い事なかったんじゃないのかい?」
ああ、そんな会話もしたんだっけ? 会話したことすら忘れている。
「金曜も習い始めたんです」
「今度は何を?」
「人間心理学の通信?」
「こりゃまた、けったいなものを……」
「昔、知り合いにカウンセラーがいたので、ちょっと興味がありまして」
そう言ってから手を振って歩き出す。
「ああ。秋元さん」
「はい?」
「風が強くて、雪も降ってきたから気をつけて」
もう? 私は瞬きをしながら社員入り口を開ける。
大粒の雪の結晶がドアの隙間から入り込んで一瞬息が詰まった。
酷い降りではないけれど、とにかく風が強い。鞄の中からマフラーを取り出して巻くと、社員入口から身を出した。
やばい。足元気をつけないと飛ばされそうだ。
手持ちサイズの長さに合わせたバックの紐を伸ばし、肩なら斜めに掛けてからゆっくり歩き出す。
ぼんやりと歩き続けて十分。結局向かい風に疲れて、近くのお店の軒先に非難した。
こういう時、免許があるとかなり便利かもしれない。もうちょっと時間がれば車の免許でも取ろうかな。
紫色の空を白い雪が横に縦に吹き上げられたりしていて忙しい。それを眺めていた時……。
「秋元さん?」
声のする方に顔を上げると、見覚えのある顔が目を丸くしていた。
「なんであなたは、いつも妙な時にいるんでしょう」
私の小さな呟きに、裕さんは苦笑する。
「妙も何も……ここ、僕の店だって知ってるでしょう」
言われてみて、以前、佳奈と来た店の前だったことに気がついた。
それにしても、この遭遇率はあまりないと思うんだけれど。