雪降る夜に教えてよ。
『ちなみに、私と夏樹くんはこれからデートだから。桐生さんを追い返すつもりなら、電車あるうちにねぇ。動いているか知らないけどぉ』

ちょっと待って! と、声をかける暇もなく通話は切れて呆然とした。

なんか、いっきに気が抜ける。

そしてすぐに鳴るインターホンの音。

頭はハッキリしてるんだけど、立ち上がった時に目眩がして、思わず膝をついた。

ダメダメだ私。
そのまま四つん這いで移動して、かろうじて鍵を開けると開かれたドア。

確かに、すごい形相……と言うか、おっかない顔の桐生さんがそこにいた。

「君は……馬鹿か?」

桐生さんは怒った顔のまま、玄関先で座り込む私を抱え上げる。

「きっと、馬鹿なんでしょう」

ポツリと呟くと、舌打ちが聞こえた。

「裕から電話が来た。1時間も前の話だが、何故、君はまだコートを着てるんだ?」

「それは今さっき、タクシーで帰って来たところで……」

「あー……この風で。駅まで辿り着けなかったのか?」

辿り着かなかったわけじゃないけれど、この吹雪の中でぼんやりしていたとも言えずにいたら、溜め息をつかれる。

「ま、今日は風が強いもんな?」

ソファに座らされて、私はちょっと俯いま。

きっと本当に馬鹿なんだろうと思われているんだろう。

「喉は痛いか? 頭が痛いとか?」

「熱だけです。さっき痛み止め飲みました」

「俺にうつすか?」

キョトンとして顔を上げると、片眉を上げた桐生さんと目が合った。

そこにあったのは優しい、どこかからかうような眼差しで。

思わず涙が溢れて、それを両手で隠した。

私の涙腺は、どこかに行ってしまったみたい。

桐生さんは隣に座って、そんな私の肩を抱いてくれる。

「西川恭平氏を締め上げた」

低い声に身を竦めた。

「いろいろ聞いたし、言いたいこともあるが……俺は、どちらかと言うと幸運な家庭に育っているから……。理解できるかと言うと、正直難しい」

「はい」

「可哀相だったな、と言うのは簡単だ」

「……そう言う人は多いですよ」

「だろうな。だけど俺は、それを言うのは、お前に失礼だと思うんだ」

目線を上げると、静かな桐生さんの視線が受け止めてくれる。
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