雪降る夜に教えてよ。
「気にならないのか?」

ちらっと見られて、瞬きをしてみせる。

「桐生さんが、誰ともお付き合いしたことがないって言われた方が驚きますが。気にならないとは言いません。気になるけれど、聞いても私はどうしようもないし」

私の過去を誰にも変えられないように、桐生さんの過去を変えることはできない。

変えられなくても、過去があるから“今”があるわけで、今がいいならそれでいいのかと聞かれれば、何とも答えようがないけれど……。

それは“考えてもしょうがない”ことのようにも思える。

それなら“そういうもの”と割り切るしか私にはできない。

だけど、ムッとしたままで桐生さんは口を開いた。

「俺が混乱したのは、君と西川社長のやり取りだ」

「全部聞いてたんですか」

彼はまたベランダの外を見ながら頷く。

「……そういう接点があるとは考えていなかったからね。だから、西川さんをちょっと問い詰めた。父親の方をね?」

そして、桐生さんは振り返って、困ったように笑った。

「ああいう家にとって、赤の他人に言うのは勇気がいったと思うよ。たぶん、全部聞いたことになるんだと思うけど」

「……そうでしょうね」

呟くと、桐生さんは近づいてきて、ソファの後ろから自分の鞄を開いて、何か探している。

「すぐに君のスマホに連絡したけど出ないし」

そう言って出されたものに瞠目した。

「道端に落ちてた。何かあったのかと思って、最悪の事を考えた」

あの日道端に捨てたはずの、私のスマートフォンを差し出している。

「サンダルは脱いでくし、翌々日には服もクリーニングして箱ごとデスクに置いてあるし」

スマホをテーブルに置いて、桐生さんは私の隣に座った。

「話しかけようにも、君は完全に殻に閉じこもってしまったし……?」

確かにその通りだ。

桐生さんはそっと私の腕を取ると、私の手の平に何かを落とす。

それは見覚えのある銀鎖で……。

息を飲んで顔を上げた。

「君を永遠に失ったと思った」

微かに揺らぐ視線が、とてももどかしい。

「だから、佳奈ちゃんに協力願った。我ながら情けない話だけど」

佳奈に……協力?

「新しい番号知らないし。俺がまた頑張っていっても、たぶん君はガードがかなり手強いし。だから佳奈ちゃんに、ちょっと揺さぶってもらった」

ああ。なるほど。
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