雪降る夜に教えてよ。
「今日は? 電車動きましたか?」

「ううん。この雪で旦那が仕事休みって言うから、送らせた」

ああ、なるほど。そういう時には車って本当に便利だよね。

「車があると楽ですね」

「免許があれば楽よ」

早良さんはそう言って、私の腕を掴むとこそこそと呟く。

「あんた、昨日、桐生マネに仕事手伝わせたんだって?」

はい?

ニヤニヤと笑う早良さんに、私は瞬きする。

「カスタマーの子から、夜電話があったのよ。大丈夫だった?」

なにが?

「お買い物連中がうるさかったんじゃない?」

買い物イコール、ネットショッピング組ですね。
昨日の土橋さんの小言を思いだしながら頷く。

「私は仕事していただけですから」

「桐生マネージャーとなんもなかったの? 面白くない」

だから、何が。早良さんが面白がるような事なんて起きるはずがないじゃないですか。

すると、オフィスのドアが開いて噂の当人が姿を現した。

「おはようございます」

早良さんの声に、桐生さんはゆったりと微笑む。

「おはよう。早良さん。今日は出社されたんですね。助かります」

「昨日はご迷惑をおかけしまして」

「や。面白かったですよ」

そう言って、楽しそうに自分の席に向かう桐生さんを早良さんは不思議そうな目で追って……ガバッと私を引き寄せる。

「あんた、本当に何もなかったの?」

「何か根拠でも?」

「桐生マネージャーがあんたに挨拶しなかったわ」

「外で、すでに挨拶しましたから」

早良さんはなかなか鋭い。

確かに挨拶はしてないけれど、間違いなく会話をしているよね。

「秋元さん」

桐生さんに呼ばれて、私は彼を振り返った。

「はい」

「棚橋さんは来るかな?」

「解りませんが」

「……だよね」

私たちのやり取りを見ていた早良さんは、クスクスと手をあげる。
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