雪降る夜に教えてよ。
「佳奈がまたトラブってるらしいです」

「また、フラれちゃったのかな~」

佳奈はコールセンターの人間だけど、私を通じて早良さんは知っていた。

旦那さんが遅いときなどは、佳奈の恋愛相談にお姉様として参加してくれた事もある。

「内容からすると、今回は逆みたいですね」

「はりゃぁ。何か決定打があったんかね」

「飲み……でしょうね」

飲んだら家に帰れるかな?

最悪どこかのビジネスホテルに泊まることも視野に入れておこう。

「ま~。明日休みだしね。あまり飲ませるんじゃないわよ」

「面倒ならつぶしますよ」

私たちはオフィスに残る人たちに、『お先に失礼します』と声をかけてから階下に向かった。

「さなちゃあん!」

いきなり一階のエレベーターホールで、後ろから羽交い締めにあう。

「じゃ、頑張ってねー」

早良さんに手を振られ、私は佳奈に懐かれながら、会社から近い、おでんのおいしい居酒屋に連れて行った。





***



「いいから! もうそろそろ離しなさい!」

「だってさなちゃん~」

「何があったの。この間までうまくいってたじゃないの」

確か、佳奈の今回の相手は大学の助教授だか院生だかだったはず。

「いってたのぉ!」

注文したおでんが届くと、その大根に思い切り箸を刺して、佳奈は眉を吊り上げた。

……大根に罪はないのに。

「昨日、イキナリ雪降ったじゃない? 私も、会社に行けなかったし、きっと彼も休講だからと思って、彼のうちに行ったのぉ!」

「……ずる休み?」

「折り返し運転で会社まで来られなかったから、ずる休みじゃないもん!」

さようですか……。

「で、行ってみたら驚くじゃない! 明らかに女もののブーツはあるしぃ!」

うん。やっぱりここの大根は美味しいなぁ。

「それで彼、なんて言ったと思う? 一昨日の夜から雪が降って危ないから、学生を泊まらせたんだって言うんだよぉ!!」
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