雪降る夜に教えてよ。
会社に着くと、広々とした社員入口に、顔見知りの警備員さんがマットを敷いていたから声をかける。

「おはようございます」

「ああ、お早いですね」

「この雪ですから」

穏やかな口調に優しく返し、エレベーターホールに向かった。

いつもだったら、ここで数人の同僚と会うはずだけれど、今日は私一人。

ボタンを押した直後にエレベーターの到着音が鳴り、直ぐに扉が開いたのでそれに乗り込む。

いつも電車の混む時間を避けて人より早めに来ているのだけれど……ちょっと早めに出たつもりが、かなり早めに着いてしまったらしい。

カスタマーデスクは四階にある。

エレベーターが到着すると、まだ薄暗いエントランスを抜けて、オフィスの前にあるカードリーダーにセキュリティカードを通す。

ドアを開けると、すでに電気がついていた。

「あれ? おはよう秋元さん」

声をかけてきたのは桐生マネージャー。

この人は苦手だ。

桐生隆幸。二十八歳。どこだか外国の大学を出て、どこかの外国企業に勤めていたのを、数ヵ月前にヘッドハンティングされてうちにきた。

社内のシステムの管理を一任されている、いわゆるエリートマネージャー。

身長は確か百八十五センチか百八十六と聞いたことがある。

ちょっと明るい感じの黒髪に、きれいなアーモンド形の目。
間違いなく容姿端麗といわれる部類の人で、誰にでも人当たりがいいところが女子社員に大人気。

この誰にでも人当たりがいいって所が胡散臭い。

「おはようございます。桐生マネージャー」

「今日は寒いね!」

「そうですね」

「………」

コートをかけて振り返ると、不思議そうな顔の桐生さんと目が合った。

「無口なんだね」

別にあなたとお話しをしたくないだけですから。

とりあえず、そんな事を面と向かって言うのは社会人失格だから、小首を傾げてとぼけながら自分の席につく。

各席はそれぞれ低いパーテーションで遮られていて、座れば桐生さんと顔を合わせずに済んだ。

パソコンを立ち上げ、集計して振り分けられたメールに目を通しながら、小さく溜め息をつく。

私の仕事は、システムトラブルに関して、メールでの問い合わせに返信するヘルプデスク。

毎日いろんな問い合わせが舞い込む部署でもある。
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