雪降る夜に教えてよ。
「つぶそうと思ったんだけれど失敗しました!」

憤然と言って、テーブル席につく。

「さなちゃんもいつも大変だね~」

コップを置いて、お酒を注ぐ大将に同情されながら半分寝ている佳奈を見た。

「こんな恋多き女の子の友達なんて、お酒でも飲まなきゃやっていられないです」

言いながら、店内の暖かさに眼鏡が熱気で曇ってしまう。
置いてあったティッシュで拭いていると、戸口が開いた音がしたので、何気なく顔を上げて固まった。

「らっしゃい! ああ、昨日の旦那。待ち合わせだったのかい?」

待ち合わせとか、そんな訳はないけれど、大将の言葉に面白そうに片眉を上げ、私を見下ろしている桐生さん。

素早く眼鏡をかけ直して咳ばらいした。

「こ、こんばんは」

「奇遇だね、秋元さん」

何事もなかったかの様にニッコリと微笑む彼の後ろから、見覚えのある顔が覗く。

「あれ。夏樹さん?」

「あれー。こんな時間に、て、飲んでるの?」

正確には佳奈に飲まれていました。

「今日は会社に缶詰で~。マネージャーがうまいラーメン屋知ってるって言うからついて来ちゃった」

そう言って、夏樹さんは当然の様に同じテーブル……佳奈の隣に座る。

夏樹さんて人懐こい人だなぁ。

「この子、大丈夫? 飲ませ過ぎじゃ?」

「たぶん……任務失敗しちゃいまして」

夏樹さんは心配そうに佳奈のお水を手に取ると、それを怖ず怖ずと差し出した。
……見ず知らずの酔っぱらいに、彼は人もいいみたいだ。

「お水、飲めるかい?」

「私はさなちゃんとラーメンたべるのぅ!」

佳奈はそう言って、壁にもたれて気持ちよさそうに目を閉じる。

「ごめんなさい。ラーメンに行き着く前に潰す予定だったんです」

桐生さんはクスクス笑いながら、私の隣に座った。

まぁ、四人がけのテーブル席だし、夏樹さんが座っちゃったから位置的にも解るけど、なんか嫌だな。

大将が彼らにお水とおしぼりを出してくれて注文をとっていく。

「それで、秋元さんは定時に上がって、ずっと飲んでいたのかい?」

桐生さんの言葉に首を振った。
飲んでたのは佳奈で、私は食べるだけでほとんど飲んでない。

「飲んでいるところです」

コップを掲げると、夏樹さんが目を丸くした。

「それって、日本酒? さすが秋元女史だなぁ。お酒強いんだ」

その言葉に、大将は笑って、佳奈の味噌ラーメンを置いて去っていく。

何も言わずに去っていかないで欲しい。
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