雪降る夜に教えてよ。
そうですか。

……って、そんなもの言われたところで、興味がないものを興味あるふりをして聞いてもしょうがないと言いますか……。

それでも桐生さんは車をどこか高台の路肩に停めて、楽しそうに私を見た。

「君に取っては関係ない話なんだろうな」

「まったく」

「うちの父があの会社の社長の娘と結婚した。祖母は日本人だから、厳密にいうと俺はクォーターだよ」

「お祖母さんも日本人だったんですか」

「そういう事」

桐生さんはクスクス笑って、また煙草を吸った。小さな火種が赤く明るくなる。

「後継ぎでもなければ、後を継ぐつもりもないけど、大きな会社だからね。それだけで言い寄ってくる女性には事欠かなかったよ」

うー……んと。

「それは、モテるんだという自慢ですか?」

「美人なのを自慢にして、言い寄って来ない人は初めてだったってこと?」

世の中はいろんな人がいると思うんです。

考え方は千差万別で、人の事を勝手に推測しないでもらいたいんですけれど。

「それ……伊達眼鏡でしょ」

指を差された先には、私のかけている眼鏡。言い当てられて身を引いた。

「な、何の事でしょう?」

彼は小さく笑って首を振る。

「俺にもちゃんと目が付いているんだ。気がついたのは先月。君、疲れてくると眼鏡下げてモニターを見る癖がある」

……それは知らなかった。

「通常の目が悪い人のする事じゃないだろう? 昨日、近くで君の事見ていて確信したんだけれどね」

この人、見ていないようで、すごく人を見ているの?

「あの! そんなこと言って……と言うか聞いて、何の得になるって言うんですか」

桐生さんはニッコリと、それこそ清々しい笑みを見せて頷いた。

「損得と言うか、俺の好奇心が満たされるよ」

……そうですか。

「好奇心ごときで聞いてほしくないですね」

「なぜ?」

また聞き返しますか!

「なんで私がマネージャーに言い寄らないといけないんですか」

「や。別に言い寄ってほしいわけじゃないけど」
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