雪降る夜に教えてよ。
桐生さんは、少し眉をしかめて首を傾げた。

「もしかして、傷つけられたことでもあった? 君くらい美人だと、そういう事もないとは言い切れない」

心配するような表情に、スッと、気持ちが落ち着く。

まるで、今まで混乱がなかった様に。

「や。それはないよね? それなら君はもっと男性に警戒するはずだし。それなら……いや。本当に申し訳ないんだけど」

多分、襲われた経験があるのかと聞いているのだろう。

ここまで明け透けな人も滅多にいないけど、たぶん心配してくれているのは確かなんでしょうね。

「違いますよ」

それだけを呟いて、窓の外を見る。
ちょっとの沈黙の後、彼は煙草を消した。

「……解った。もう、帰ろうか」

桐生さんが低く呟いて車が動き出す。

沈黙の中、私はただひたすらに外を眺める。外灯のオレンジが、降り積もった雪に影を残して綺麗。

雪の季節は大好きだけれど、それはいつも寂しさと隣り合わせだったから……。

そんな事を思い出しながら。




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