雪降る夜に教えてよ。
***



今日は朝から雨だった。
積もっていた雪もすでに溶け、灰色の街が戻ってくる。

なんとなくボンヤリする頭を切り替えて、コーヒーを飲みつつ休日のテレビを見た。

法律がどうの、憲法がどうのと討論しているけれど、テレビでそれをバラエティのように放送しているのだから世の中は平和だ。

こうしていると、普通にそう思える。

昨日の帰り際、桐生さんは『仕事とプライベートは別だから、あまり気にしなくてもいいよ』と言って去って行った。

ちょっと大人だな、と思う。

同い年の男の子なら、ああは行かないだろう。悪ければ逆切れされる。
私が何もしてなくても、自分の考えていた話が通用しなくなれば、普通にそう反応する人もいるものだし。

だから、そういう対象にならないように気をつけていたんだけどな。

でも、何をどう間違っても、好かれるような要素はないと思うんだけど。

普段は眼鏡でしょ?
化粧もしないでしょ?
髪も実用的にまとめているだけで、おしゃれでもないし。

そもそも桐生さんとはあまり話したこともないから……不思議でしょうがない。

そう言えば、彼はお坊ちゃんなんだっけ。それなら解らなくて当たり前かな。

そういう階級の人の考えることなんて、理解できた試しはないんだから。

スマホの着信音にソファから起き上がる。

あれ。スマホどこだっけ? わたわた探して、バックの中に見つけて取り出す。

知らない番号に眉をひそめ、解らないながら、受信ボタンをタップした。

『もしもしさなちゃん?』

「え? あれ? 佳奈?」

『ピンポーン!』

ピンポーンじゃないだろう。

「どーしたの? 番号替えたの?」

『またまたピンポーン。例の男が今朝からしつこく電話してきてぇ。うざいから新規契約してきたぁ~』

元カレね。いつもながら、切り替えが早い事。

「大丈夫なの? ストーカーになったとか、そういうのは無しにしてよ?」

『うちの家は知らないよぉ。会社は知ってるけど』

「十分じゃないの。気をつけなさいね」

『大丈夫だよぉ。彼も社会的地位を捨てるような馬鹿はしないでしょ。馬鹿は馬鹿だけど』

乾いた笑しか出てきませんけど。

元カレは佳奈の中では闇に葬り去られたようだ。

『でさ。さなちゃんにお願いがあってねぇ』
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