雪降る夜に教えてよ。
「それは嫌」

沈黙が返って来る。

「こういう時のあんたのお願いが、私にどれたけ迷惑かかったか、忘れたとは言わせません」

『言わせてよぉ』

まったく。しょうがないなぁ。

「何?」

『夏樹君を紹介して!!』

はい?

「夏樹君のこと、あんた覚えてるの?」

『そりゃ、謝らせた人を忘れるはずないよぅ』

いや、どちらかと言うとその記憶は忘れた方がいいと思うんだけど。

「SEだよ? システムオタクだよ? あんたオタクは嫌いでしょうが」

『サナチャン。それってヘンケンって言うの、知ってる? 彼らはプロでアマチュアじゃないの!』

「似たようなものよ」

『そんなこと言ったら、さなちゃんだってSEになれるんだし、資格取りオタクでしょうが』

……確かに。暇さえあれば通信教室を楽しんでいる私がいう事じゃないかも。

『さなちゃんが普通にSEになっててくれたら、遊びに行ったり出来たけどさ、ヘルプデスクなんだもん』

「人事に文句を言ってちょうだい」

『私が言える訳ないでしょう』

そうだね~。お互いしがない平社員だしね。

「……にしても、なんで夏樹くん? あそこにはもっといい男が座ってたじゃないの」

『桐生マネージャー?』

佳奈は電話口で爆笑している。

そんなにおかしなこと言ったかな?
だけど、桐生さんってそういう対象になり易そうだけど。

『やだな~さなちゃん。いくら私でも、自分のこと見てもくれない人を好きになんてなれないよぅ』

はい?

『だって、マネージャーは私の事なんて見てなかったもん。さなちゃんは隣で気付かなかったかもだけど、さなちゃんの事しか見てなかったよ~あの人』

「ぶっ」

コーヒーを吹き出して、慌てて拭いた。

『さなちゃん。さなちゃんは男の子のそういうところに全く無頓着だよね~』

「そんなことはないっ!」

『あるよぅ。それで私に相談しに来た男の子も、たくさんいるんだから』

もしかして私って鈍い?
人生何事もなくうまくいっていると思っていたよ。
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