雪降る夜に教えてよ。
「桐生マネージャー」

「はい?」

ちらっと覗き込むと、桐生さんはパソコンから顔も上げずに返事をしている。

「終わりました。私は何をお手伝いすればいいんですか?」

「まず、注意事項からね。情報は見られるな、見せるな、言うな」

それは当たり前すぎるほどのルールでしょう。

「社内でも他部署に連携が必要な時には俺に声かけて。僕が判断するから。絶対に自分で判断しない。て、訳で、そこの席に着いて、これを打ち込み」

渡された分厚いファイルに軽く目を通す。

それから桐生さんと背中合わせのデスクに座って、パソコンを立ち上げた。

おお。これ、会社のマザーコンピューターに直結してるんだ。

書類の一番上にあるシステムのパスワードを入力して、必要な箇所にアクセスする。

「驚いた。教えなくても、アクセスできるんだ」

振り返ると、桐生さんの顔が思っていた以上に近くにあって、内心ぎょっとしながら頷く。

書類にパスワードとアクセスコード書いてあれば、普通に解ると思います。

「……桐生マネージャー」

「なに?」

「解らないことがあれば聞きます」

しばらく彼は私の顔を眺めた後、フッと笑ってパソコンに向き直った。

「じゃ、僕の方はマネージャーミーティング行って来るから、よろしく」

「はい」

さっさっといなくなれ。てか、やっぱりやさぐれてるかもしれない、私。

たまに文句を言いに来るお局様や、激励してくれる同僚を退け、とにかくひたすら指を動かしていた。

先週の2人でやった五百件のメール返信よりは、考えないでいいから楽かも。打つキーの多彩さはすごいけど。

大体のところ打ち込みチェックを入れている時に、桐生さんは帰って来た。

「終わりそう?」

「後2ページ打ちこんで、漏れがないか確認すれば終わります」

「秋元さんかっこいい」

かっこよくないですし。

確認し終わって保存する頃には、オフィスに二人きりになっていた。

正直言って、今日も疲れた。

「お疲れ様。ここまで優秀とは思ってなかったよ」

何だと思っていたんですか。

や。でも普通はそうかな。私は単なるOLだしね。

「お先に失礼しても?」

「駄目」
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