雪降る夜に教えてよ。
「こいつ、もらってくな」

背後にかけられた彼の言葉に、佳奈と夏樹さんがいた事を思い出し、慌てて振り返りかけて桐生さんの腕に阻まれた。

「いいから。おとなしくしておけ」

耳元で囁かれて、その胸に顔を埋める。

どちらにせよ、今、顔を合わせる勇気はない。

その力強い腕の中に抱かれたまま、私は助手席に下ろされていた。

「よし。ドライブに行こうか」

……え。

「少しくらいデートしても減らないし。つきあって」

「な、何故、どうして、ですか」

「デートしたいからに決まってるでしょ。ちなみにうちの労災規準では、終業後、申請通勤路以外の場所にいた場合、いかなる事故に巻き込まれても関知せずだよ。つまり、今の君は仕事中じゃない」

「……っ!」

「これは君のミスだね」

桐生さんはニヤッと笑って、私にシートベルトをつけてくれてから、運転席に回る。

そして彼は車を走らせながら、首を傾げた。

「とは言え、この時間にどこに行けばいいかな?」

「私のマンションで降ろしてくれる、という手段がありますよ」

「部屋の中に招待してくれるなら、それでもいいよ?」

「では、却下しておきます」

クスクス笑われて、それでも何も話さないまま車を走らせ続け、停まったのはどこか見覚えのある高台だった。

「あー……。やっぱり雪降りだと視界が悪いね」

窓の外を見ると、雪に包まれていながらも街の明かりが広がっていた。

「や。これはこれでそこそこ綺麗です」

「それは助かるね。君は味も素っ気もないから」

怒ればいいのか呆れるか、どっちにしようか。

どちらにしろ目を細めて、桐生さんを振り返る。

「じゃ、放っておけば……」

「よくないから、連れ回してるんでしょ」

桐生さんは車のヒーターを最大にして、微かにウィンドゥを開ける。

それから煙草に火をつけると、紫煙をゆっくりと吸い込んだ。

「前にも増して、殻に閉じこもったね。それって俺のせい?」

「何故、そう思いますか」

「……たぶんそれが、君の最大の防御方法だからかな?」

「何故、そうだと……」

「俺がそうだから」

桐生さんはすぐに煙草を消して、シートベルトを外すと私に向き直った。
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