雪降る夜に教えてよ。
バタバタしている回りの中、よく通る声に私は黙って頷く。

システムヘルプは通常のカスタマーと違い、専門的知識も必要とする。

応援を頼みたくても、なかなか応援を頼みにくい部署でもあった。

寂しいわけじゃないけれど、五百件をひとりぼっちで処理するのは嫌です。

「お願いします。今日中にある程度は返信しとかないと……回らなくなります」

「ああ、理解しているよ。俺もこういうのは経験あるからね」

「そうなんですか?」

「そうなんです。じゃ、ちょっと行ってくるから」

そう言って走り去る桐生さんを見送って、私はまわりがグルグル回っているような気分になった。

普段は、メールが届いて一度確認してから、翌営業日に返信作業に入る。
今、こうしている間にも問い合わせは発生していることだろう。

今日のうちに、三百件くらいはさばかなきゃ、明日も件数が増えるでしょ?
そのうち何件かはメールで数回はやり取りしないといけないし……。

てか、冗談じゃないわ。

お先真っ暗な気分でいた結果、桐生さんはなんと、開発部のシステムエンジニアの人を連れて来てヘルプデスクに据えた。

まるっきり他部署からの応援を取り付けるなんで、かなり強引なことをする人だ。

でも、いくらシステムに強い人でも、ヘルプデスクはある意味素人さん相手に返信する訳で……。

「あの、専門用語だらけで解らないと思います」とか。

「そんな理論は展開しなくていいんです」とか。

「敬語が無茶苦茶じゃないですか」などと、やっているうちに『システムヘルプがうるさい』と、お局様たちにブースを追い出されました。




***



「ごめんな、秋元さん」

「いえ。こちらこそ、忙しい中、わざわざ来ていただいてるのに、すみません」

来ていただいたSEさんは夏樹さんと言って、実は私と同期らしい。

いちいち文句を言う私に怒りもしないなんて、なんと出来た人なんだろう。

とりあえず、小会議室にノートパソコンを持ち込んではみたけれど、問い合わせメールは相変わらず地獄の様な量だ。

「ヘルプデスクも大変だよな~。なんせ、相手がいる訳だから」

「SEの方も大変じゃないですか」

「うーん。俺らは営業さん相手だとけっこう開き直るから。直接お客相手には開き直れないけど」

それはもちろんですね。

納得して頷くと、ノックの音がしたので振り返る。ひょっこりと桐生さんが顔を出した。

「申し訳ない秋元さん。夏樹。室長が呼んでるって」

ああ。夏樹さんも行ってしまわれる。
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