雪降る夜に教えてよ。
あれ。なんかまずいこと言ったかな?

「俺の家に来るつもり、ならいつでも? ちなみに君くらい弱い女性なら一発で前後不覚にできるよ? しかも、俺は一人暮しだから、帰さないと思うけど」

一言一言を区切るように、ニコニコと微笑まれながら言われたとんでもない発言に、思わず背筋を正すと桐生さんは少し困ったような笑みになった。

「だから、少しは警戒しなさい。俺もそのうち付け込むよ?」

や。それはマズイです。いろいろと、マズイですから。

「でも……おでんはいいな」

ん? 今度は何に反応したの?

「桐生さん、もしかして和食好きですか?」

「好きだよ。休日だとけっこう作るけど、おでんはねぇ。作っても、きっと食べ切れないし」

「わかります。ちょっと困っちゃうんですよね。かと言って切り売りされてるおでん具だと美味しくないですし」

「秋元さんは自炊する人?」

「自炊する人です。年末、日本食で締めようと思ってますけど、ウチに来ますか?」

桐生さんはジャケットの胸ポケットに手を入れた姿で……固まってる?

「佳奈も夏樹さんも招待してますから、普通のお誘いです」

「……煙草吸ってもいいかな」

どうしたんですか、唐突ですね。

いちいち断り入れなくてもいいのに。「どうぞ」と答えると、煙草に火をつけて、思い切り吸い込んで思い切り吐き出した。

「あー……。ビックリした」

「唐突にお誘いして、もしかして期待させたならすみませんが」

「や。そっちじゃない」

どういう意味だろう? 首を傾げる私に、桐生さんは普通に微笑んだ。

「だって、秋元さんの素の笑顔初めて見たし?」

「私、今、笑いました?」

「うん。ニコッて感じに」

だからってそんなに動揺するくらいに驚かなくてもいいじゃないか。

「今度は怒るし……」

桐生さんは煙草を灰皿に置くと、スッと私の眼鏡を取った。

「あ。やだ、返してください」

「ダメ。ここは暗いんだから、秋元さんに無表情になられたら、俺、君の反応見にくいし」

桐生さんはそう言って、私の眼鏡をハンカチに包んで内側の胸ポケットに入れてしまった。

あー……。もう、この大人なお子様をどう取り扱おうか。

「今度は呆れたし」
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