雪降る夜に教えてよ。
「呆れますとも」

「いいじゃないか、プライベートくらい……」

ちょうどその時、私の目の前にスッと淡いピンクのカクテルと、透明なカクテルが置かれた。

「ようこそいらっしゃいました。お嬢様」

お、お嬢様!?

顔を上げると黒いスーツ姿の男の人が立っていて、ニッコリと微笑みかけてくれた。制服でもないし、何者?

「なんで、お前がここにいるんだよ」

桐生さんの言葉に、その人は片眉を上げてそちらを向く。桐生さんと同じ癖だ。

「イヴ前日に、自分の店を見て回って何が悪い」

知り合い? ちらっと見ると、桐生さんはしかめていた顔を笑顔に戻して頷いた。

「従兄弟。ここのオーナーで裕」

「はじめまして、一条裕と申します」

そう言って、裕さんは、優雅に一礼する。これはこれはご丁寧に。

「はじめまして、秋元と申します」

ちょこん、と頭を下げると、何故か裕さんは面白そうな顔をしてみせた。

「隆幸の恋人……にしては、ちょっと他人行儀な気がするけど」

「一時的な部下です」

力強く低い声で呟くと、裕さんは瞬きして、桐生さんは笑い声をあげた。

「や。全く気にすることはないよ。裕はもの珍しくてからかっているだけだから」

物珍しくて見ず知らずの人間をからかうって、あなたの親族はどういう趣味しているんですか。

「秋元さんは、隆幸には興味がないのかな?」

裕さんは不思議そうに首を傾げている。

「あの、桐生さん」

「はい?」

手で口元を隠し顔を近づける私に、桐生さんは耳を貸してくれる。

「ご親戚の方は、いつもこうなんですか?」

「や。違うよ。でもそうだなぁ、俺が裕の店に女性同伴っていうのが珍しいからかな?」

へぇ……それは、どういう意味にとらえればいいんだろう。

とにかく、従弟が女性をお店に連れてきたからからかってやろうと思うのは、ちょっと悪趣味だと思う。

「なんだか、ちょっと憂鬱な人生観をお持ちのようですね」

その言葉に桐生さんは吹き出し、裕さんは今度こそポカンとして私を眺めていた。

「ちょっと変わったお嬢さんだな? お前の彼女は」

「ですから。彼女じゃないです。部下です」

きっぱり言い切ったた言葉に、桐生さんは軽く私を睨んでくる。

「お前……その言葉、覚えてろ?」

や。ちょっと忘れようかな~と思います。
< 51 / 162 >

この作品をシェア

pagetop