雪降る夜に教えてよ。
今は、横にいる裕さんの足を踏んでるし、睨んでるし。

「……面白い人?」

「他に言いようはないのか?」

「今のところは」

桐生さんはヒョイと片眉を上げて、ニヤリと笑う。

今度は何ですか、その笑みは。

「いいよ。今のところは」

「あー。判ったから。消えるから、足をどけろ隆幸」

裕さんは半ば怒ったように言って、立ち上がった。

「イヴ前にイチャイチャする奇特カップルに構ってられるか」

「別にイチャイチャなんて、そんな事はしていない」

「カップルでもないですし」

言った瞬間に桐生さんがまた睨んでくる。

「忘れるなよ?」

「いえ。絶対に忘れます」

グラスの中味を飲み干して、指を振る。

「だって、桐生さんは訳わかんないんだもん」

「ん?」

きょとんとして、桐生さんは眉を上げた。それを見ながらくすくす笑って見せた。

「理解できない人には近づかない! それが一番楽なんですよ」

桐生さんは目を細めると、私からグラスを取り上げる。

「もしかして、あれで酔ったのかい?」

「そんなことはありませんよ」

ふわふわな気分でほつれた髪を直そうとして、めんどくさくなって髪留めを外した。それから手をヒラヒラとさせる。

桐生さんは私を見ながら、裕さんのネクタイをグイッと掴んだ。

「さっきの、ウォッカとストロベリーリキュール、カルピスの他に何が入ってたんだ?」

「……極少量のスピリタス」

「支払い」

「かしこまりました」

桐生さんがカードを裕さんに出したので、私は腕を組む。

「もう、出ちゃうんですか?」

「うん。少し酔いを醒まそう?」

「じゃ、おでん食べに行きましょう」

桐生さんの腕を引っ張りながら、私は立ち上がる。

「お前ねー……。そろそろ、俺も本気でつけこむぞ?」

「そんなこと、紳士はしないものですよ!」

「だから、少しは警戒しろと言っいてるだろうが!」
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