雪降る夜に教えてよ。
叱りつけるように言われて、頬を膨らませた。

「だって、おでんは年末に作らないですから!」

「……それは俺が行くこと決定されているのか?」

「来ないつもりですか?」

桐生さんは笑っている裕さんからカードを受け取って、鞄やコート片手に、私の腕を取り直す。

「とにかく、その判りにくい酔いを醒ましてからだ」

言いながらバーを出て、エレベーターに乗った。

「おでんがいいです~」

「はいはい。かしこまりました」

「うわ。なーんか超おざなりで、ちょっと気障!」

「お前もたまに言うだろうが」

「もしかして“結構です”、なら普通ですよ」

「普通か? 断り文句の“結構です”はかなり高飛車だぞ」

騒いでいる間に、エレベーターは一階ロビーに着いたから、私は桐生さんの手を振り切って自動ドアから表に出る。

「あ、こら」

外はまた、雪が降っていた。

「……ホワイトクリスマスになりそうですねぇ」

後ろに立つ、桐生さんに語りかけた。

手に受けた雪は、すぐに消えて水滴に変わる。東京の雪はすぐに消えてなくなってしまうから、なんとなくそれが寂しい。ぼんやりとそんな事を思っていると、桐生さんは、自分のコートで私を包み込んでくれる。そのまま抱きしめられ、見上げると暖かい輝きの瞳と目が合った。

「……何故、私?」

「一言では難しいな」

「私、特に優しくなんかないし、けっこうきついと思うんですけど」

桐生さんはフッと笑って私のおでこにキスをした。

「行こうか。土橋嬢がこちらに気付いたみたいだ」

「ぇぇえ⁉」

思わずロビーを振り返りかけた私の腕を、桐生さんは素早く取り、イキナリ走り出す。
「逃げるが勝ちだ!」

「え!? ちょっとま……」

「君は見つかるわけにいかないだろう?」

「そりゃ、そうですけど」

思わずクスクス笑いがもれてきた。笑えるのは素敵なことだと思う。とても、素敵なこと……。

そして遠くで土橋さんらしい「桐生さん!」と呼ぶ声が微かに聞こえた。










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