雪降る夜に教えてよ。
「君は戻った方がいい。そんな薄着じゃ風邪をひくぞ?」

それでも黙って、ベランダの外の風景を眺めた。

住宅街に程近いマンションは、今は車も少なく、遠くで鐘が鳴るくらいで静かなものだ。

「平和ですね」

「静かだな」

うん。とても静か。

「桐生さんは、久しぶりの日本の年末ですか?」

「そうだな。日本に居たとしても結局は家族総出で騒いでるから、鐘の音が聞こえるような年越しは初めてだよ」

「それはどんな騒ぎですか」

「なにかとうるさい人間の集まりでね」

自嘲するように笑いながら、静かな音と共に、携帯灰皿に煙草を入れて蓋を閉める。

それをポケットにしまい、桐生さんは私の肩を引き寄せると、後ろから腕の中に抱き込んだ。

「この頃は抵抗しないね」

「しても無駄でしょう?」

「ハハッ……それはもちろんだよ」

断言しているしねぇ。もう、何を言っても好きなようにするんだろうなぁ。

「でもまぁ、君は、本当に小さいね」

「悪かったですね」

「ちょうどいいよ。キスには困るけど」

おどけるように言った言葉に、じっと彼を見つめる。

好きだと言われても答えない私。

きっとそんな私のせいで、桐生さんとの関係は、上司と部下という以上に宙ぶらりん。それなのにこんなことを時々言ってくる。

「諦めないんですね」

「諦めないね」

「私は諦めるのは早いですよ」

「俺は諦めない」

桐生さんはフッと笑って私のクリップを外す。風にそよいだ髪が肩に落ちた。

「俺が諦めたら、君は納得するだけだろう? そして殻に閉じこもる。今の所、佳奈君だけが、君の感情を呼び覚ます」

無言で目の前のマンション群を見ていたら、また桐生さんは微かに笑って、私の髪を片側の肩に寄せる。

「今日は酔ってない?」

「カクテル一杯で酔いませんよ。桐生さんは薄目に作って下さったし」

「それは良かった」
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