雪降る夜に教えてよ。
絶望的な気分が伝わってしまったのか、夏樹さんは私と桐生さんを交互に見てから困ったような顔をした。

「え……でも……」

「俺の方も手が空いたから、こっち手伝う。今回のプロジェクトのメインはお前のプログラムだろうが」

なんだか大切っぽい感じだ。夏樹さんを見ると頷いた。

「大丈夫です、夏樹さん。どうにかしてみせます」

「終わったらすぐ戻ってくるから」

「いえ。SEの本業をちゃんとやって下さい」

謝りながら出て行った夏樹さんの席に、今度は桐生さんが自分のタブレットパソコンを片手に座って起動させている。

「桐生さんも、お忙しいでしょうから、いいですよ」

いつも桐生さんは忙しくしていて、お局様たちを遠ざける姿を目にしていたから、普通にそう思って顔を上げた。

「問題ない。僕が忙しくなるのは来週からだから」

ん?

「そうなんですか」

「そうなんです」

桐生さんはそう言って、どことなく楽しそうにキーボードを叩いている。

「ふぅん? 2時間で百件近く終わらせたんだ」

んん? それって、私の返信量? 確かにそれくらいになるかもなーとは思っていたけれど。

「よくわかりますね?」

桐生さんはひょいと片眉を上げてから、ゆっくりと私を見た。

「僕は誰?」

「……システム管理のマネージャー」

聞くだけ野暮って事でしょうね。

桐生さんはクスクス笑いながら、夏樹さんが使っていたパソコンに向き直る。

「秋元さんは面白いね」

私は“面白い人間”ではありません。

「マネージャー……ヘルプデスクの事はお判りになりますよね?」

「大丈夫」

軽くそう言って、すでに打ち込みを始めてる姿に肩を竦めて、私もパソコンに向き直ると返信を再開する。

しばらくキーボードを叩く音だけが響き渡り、ちょっと楽しくなってきた。

この音、好きだなぁ。仕事してるぞって感じ。

「……楽しそうなところ悪いけど」

急に声を掛けられて、飛び上がった。
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