雪降る夜に教えてよ。
うっ。なんか微妙に仕返しされた?

桐生さんはさっさとパーテーションから出ていくし、私はちらっと原稿を見て、げんなりした。

いいわ。三十分以内で終わらせてやるんだから! 

とにかく、一人きりで内線を受けながら、原稿を仕上げていく。

実際は四十分かかったけど、十時までには三十分の余裕。

これなら……間に合うかな?

そう思いつつ三階に着いて、こめかみを押さえる。

なんでこんなに会場が雑多なの?

コロシアムみたいな作りのホールは、新入社員や既存社員で入り乱れているし、それよりも桐生さんはどこ!?

「あれ! さなちゃん?」

聞き覚えのある声に振り返る。

「佳奈?」

どうやら受付要員になっている佳奈を見つけた。

「どうしたのぉ、こんなとこで」

「桐生さんは見た?」

佳奈は私の手に持っている原稿を見て、壁の時計を見た。

「最前列の右端。急がないと社長来ちゃうから、出られなくなるよぉ」

言われて、片手でありがとうと手を振ると、出来るだけ急いで桐生さんのもとに行く。

「ああ。ありがとう」

桐生さんはゆっくり中身をチェックしながら、時々ちらっと私の後ろを見る。

「秋元さん、僕の後ろに座って」

「はい?」

「社長が来たから、会場は閉められる。今から出てくとめちゃくちゃ悪目立ちするから控えてほしいな。十二時になったら昼食だから、その間に抜け出そう」

振り返ると、秘書を引き連れた社長の姿。

「……仕事、残ってるんですけど?」

「知っている」

そう言って、桐生さんは清々しい笑顔で小首を傾げる。

「ただねぇ……今、出ていくのは、やっぱり外資と言っても日本の会社には間違いないから、立場的にマズイと思うよ?」

その言い方に何か作為を感じたけれど、何も言わずに後ろの席に座る私に、桐生さんはただ肩を竦めた。

プライベートと職場の公私混同を、たまにする上司をどうにかしてほしい。

あー……残業決定かなぁ。

そして、しばらく会社概念やらなにやらと演説が続き、桐生さんのスピーチの番になって立ち上がった瞬間、会場がざわめいた。

モテ男さんは大変だ。

お局様たちに向ける笑顔で会場を見回し、よく通る声でスピーを始めた。
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