雪降る夜に教えてよ。
次の日に、前日途中の仕事が無くなっていれば、遅かれ早かれ私がおかしく思うとは考えなかったのかな。

「本当に損な性分だなぁ。気付かずやらせておけばいいものを」

困ったような表情の桐生さんに、真面目な表情を返しながら進言する。

「せっかくの残業代、無くなるのは嫌ですから」

「はいはい」

エレベーターから降りるなり、私たちは早足でオフィスに戻って残った仕事をした。

お昼もコンビニパンで済ませたはずなのに、終わったのは、たっぷり日も暮れた夜二十時頃だった。





***



お腹空いたかも。シス管って本当に大変だと思う。

「今日はこのまま飯食いに行くか?」

ちょっと心惹かれるものがあるけれど……佳奈たちは今日は帰っちゃっただろうなぁ。

そんな事を考えていたのを見透かされたのか、困ったように半笑いされた。

「……そんなに毎回、襲わないし」

「襲われた覚えもありませんけど」

桐生さんは片眉を上げて腕を組んだ。

「や。そう言ってもらえるとは思わなかったな」

若干照れているようにも見えるけれど……キス魔とか抱きつき魔な自覚はあるのかな。

「遅れたバレンタインって事でもいいけど」

バレンタインはあなた、たーくさんもらっていたじゃありませんか。

「今は何月だと思ってるんです」

「んー……四月かなぁ」

桐生さんはそう言って、パソコンの電源を落とした。

「お花見の季節ですね」

「……それは遠慮したいかもなぁ」

ポロリと出てきた愚痴っぽい声に頷く。きっと桐生さんはお局様たちに囲まれちゃうしね。

「それにしても君、いつの間に新入社員と仲良くなっていたの?」

桐生さんの言葉に首を傾げた。

別に仲良くなったつもりはないのだけれど。

「昼間の彼のお話でしたら、朝、やたらに緊張していたので少し話をしただけですよ」

「それだけでアレ? 今時の若者は積極的だな」

いや、それは絶対にあなたが言える台詞じゃないと思うんですが。

「今日は居酒屋でもいきますか」

そう言ってバックを持ち上げた私に、桐生さんは両眉を上げた。

「珍しい。誘いに乗った」

「お酒は飲みませんよ」

「飲ませませんよ」
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