雪降る夜に教えてよ。
桐生さんはクスクス笑ってドアを開けてくれる。

「飲んだ時の君も、なかなか面白いんだけどね」

だから飲まないようにしているんですけどね。

私は飲み過ぎるとちょっと口が軽くなる。

上司としての桐生さんなら信用しているし、結構言いたいことを言っているのに、あまり怒らない関係性は少しだけ居心地よくなってきているというか。

ただ、やっぱり、好きな人としては見てはいないし、醜態をさらすのは遠慮したいかも。

結局、桐生さんはいつもの通り車なので、大人しく近くの居酒屋で、お酒は無しの和食チョイスのご飯を食べ、車で送ってもらうことになった。

まだ少し肌寒い四月。
夜のオフィス街は静かなようで、奇妙なざわめきに包まれる。

それがどんどん通り過ぎて行くのを、ぼんやりと眺めていた。

私は、このままこの人の好意に甘えたままでいいのかな。

「秋元?」

桐生さんの低い声が、私をもの思いから抜け出させる。

「何かあったか?」

「上司にいじめられましたが?」

フッと笑って、桐生さんは前方を見ながら軽く首を振った。

「あのさ? それっくらいの理由で、俺が騙せると思ってるんですか?」

あまり思ってない。

「たまには、そっとして置いてもらいたい時もありますよ」

「あのね? お前の場合は放っておいたら、閉じるか勝手に自己完結して終わるでしょ」

間違いないかなー。痛いとこ突いてくるよね。

「ちらっと混乱中です」

「何に? 昼間の若造?」

「いいえ。若いなぁとは思いますけど。あまり気にしてません」

呟くと口笛が返ってきた。

「それは色んな意味で少し嬉しいような?」

「なんで桐生さんが喜ぶんですか」

「俺の時と反応が違うからかな?」

……かも。

「桐生さんて変な人ですよねー」

「変と言われて肯定する奴はいないだろうな」

でしょうねぇ。

「好きな人に好きになってもらいたいとは思わないんですか?」

ポロッと出た言葉に、私も桐生さんも目を丸くした。

そして急ブレーキで停まった車に少し戸惑う。自分でも変な質問をしたと思うから。
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