雪降る夜に教えてよ。
「えーと。煙草吸っていい?」

何かを我慢しているような声に微かに頷く。

もしかして怒ったかな、とも思ったけれど、やたらに静かで困る。

桐生さんはライターで煙草に火を点けるとソレを深く吸った。

「当たり前なこと言ってもいいかな?」

「ど、どうぞ」

そうは言ったけれど、しばらく黙ったまま、お互い視線を合わせずに通り過ぎて行く車の流れを見ている。

ちょっとだけ気詰まりになりかけた時、桐生さんが口を開いた。

「好きな人に、好いてもらいたいってのは、当たり前じゃないのか?」

まぁ、思って当たり前……なんですよね?

「じゃ……」

「自分はやめておけとか、そんな妙な優しさは勘弁してくれよ?」

言おうとしたセリフを奪われて黙り込む。この先読み能力はどうにかしてほしい。

「本当に、なんでお前みたいな妙なもんが育ったのか不思議だ」

「……七不思議?」

「ちゃかすな」

はい。すみません。

「いろんな事をささっと流す癖に、たまに何かに引っ掛かる。勝手に引っ掛かって、一人でもがいて勝手に考え込んでいるし」

そう言って、左手で私の頬に触れる。

「もどかしいな。俺ではまだ君の心に触れられない」

静かな言葉に、目を閉じた。

優しい人。そしてきっと強い人。

左手に右手を重ね、ゆっくりと目を開ける。

「きっと時間がかかると思うんですよね」

自分でも思っていた以上に冷静で、なおかつ他人事のよう言葉が出てきた。

「別にいいよ」

「……そんなあっさり言わないで下さい」

なかなか言いにくいことを言っている自覚があるので、軽く桐生さんを睨んだ。

「そうでもないんだけど……」

彼を見ると、少しだけ困ったような笑顔が見える。

私は……困らせたいわけじゃないんだけれど。

「私、ずるいです。まだ、答えられもしない……」

でも。この暖かさも離したくない。

「いいよ。それで君が俺を必要とするなら……」

静かな声にちょっとだけ苦笑を返し、そして、頭の片隅で別の事を考える。


ねぇ、母さん。

私は、誰かを愛してもいいのでしょうか?

 
……そして、私には誰かを愛する資格はあるのでしょうか?









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