雪降る夜に教えてよ。
そもそもパーテーションの中は見えなくても、会話は丸聞こえだったりするので、普段人前での会話内容すら知ってる人達ですから。

「とにかくミーティング行ってくる。戻りは十六時過ぎると思うから」

桐生さんは作成した資料を手に、スッとブースから出て行く。

私も何事もなかった様に仕事に取り掛かり。しばらくしてノックの音に顔を上げると、加藤くんが顔を覗かせていた。

「あのぅ」

パーテーションから身を乗り出し、今にも踏み込んできそうな彼に片手を上げる。

「それ以上は立入禁止です」

少し躊躇しながらも、なおも入って来ようとする加藤くんを、今度は立ち上がって押し留める。

「悪いけど、本当に部外者は立入禁止」

きっぱり言い放つ私に、加藤くんはイキナリ腕を掴んできたから目を丸くした。

「桐生マネージャーと、その、お付き合いしてるって本当ですか?」

はぁあ? 真剣な顔で言う少年顔に、思わずポカンとしてしまった。

「そんなのって不潔です」

ふ、不潔!? 不潔って……君は女子なの? まるっきり夢見る乙女が裏切られたときに言うような発言じゃないの。

あー……間違いなく噂を真に受けている一人だね。

「加藤さん。今は就業中で、そんなくだらない事を言っている暇は全く無いんですけれど?」

君にはあるかもしれないが、私にはない。

「くだらない事じゃないです! 女性にそんな噂がたったら、一生ついてまわるじゃないですか!!」

女性にそんな噂が流れても、事実無根であれば人のうわさも七十五日と言うじゃないか。

この子はあまり、桐生さんと私の会話は聞いていないらしい。

「貴方は馬鹿?」

「え?」

「私はこう見えても忙しいんですけれど。今こうして、貴方の為に、大事な仕事の手を止めているのよ?」

「じゃ、貴女はやっぱり、仕事の為ならなんでもやるんですか!?」

はぁああ? 私には君の言っている意味がサッパリわからないですよ!

仕事の為になら、多少の融通は当たり前だけど、君の言うような噂通りの“融通”は了承した記憶もないし。

「信じられません!」

いや。業務中にそんな事を言ってくる君を、私は信じられませんが。

「仕事とプライベートは別でしょう」

「そんな事はありません。密接に関係して来ます!」

どうしよう。全く話しが通じないんですが。
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