雪降る夜に教えてよ。
【明日、抜き打ちで社内メールの受信記録を取ります。予定は入れないように。多分、残業になる】

へぇ。管理はこういう事もするのか。
無言で頷きながらキーボードを叩く。

【急な話ですね。必要な作業ですか? しかも、何故メールですか?】

「……フッ」

今、笑った? すると直ぐに“ピョコン”というメール着信音。
 
【実は半年に一度は、定期的にやっている事項だから。社内メールを私物化する人もいるから秘密裏に調べます】

ああ、なるほどね。だからメール。

そして画面をスクロールすると、まだ内容が付いていた。

【秋になると、パソコン内のネット使用も調べることになるぞ! 追伸:思い込みの激しい男には気をつけろ。何するか解らない。
尚、このメールは削除して欲しい。明日の監査で記録残っちゃうからなー】

思わず吹き出しかけ、書かれた通りにメールを削除する。

「桐生マネージャー?」

「はい?」

振り返ると、ファイルに目を通し始めていた桐生さんが視線を上げる。

「メールの受信音、設定変えてもいいですか?」

しばらくの沈黙の後、桐生さんはちょっぴり悲しそうな顔をした。

「可愛いのに……」

「可愛さは仕事に関係ないです」

この“ピョコン”と言う音は気が抜けてしまうし、何よりオフィス内に、こんな音を出して私が喜んでいるとは思われたくない。

桐生さんは仕方がないという表情を作りながら頷いた。

「でも、音は出しといて? けっこうそれでメールの見落としあるから」

「マネージャーは鳴らなかったじゃないですか」

「僕のはモニターが青になるから」

そんな仕様聞いたこともないけれど、桐生さんなら色々といじってそうだよね。

「じゃ、私もそうしときます」

「要はメール気付ける様にしておいて? そろそろ、君にも直接来る頃だから」

「そうなんですか」

「そうなんです」

いつも通りの何気ないやりとり。これが私たちの普通のやり取りだった





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