雪降る夜に教えてよ。
***



そして次の日。
天気は一日中薄暗い雨。ブランド越しに見えるビル群は灰色で、色褪せて見える。

雨ってなんだか人を憂鬱にさせるよね。

「秋元さん」

急に呼ばれて肩を竦めた。

「手元を動かせ。一日経っても終わらないぞ」

厳しい声で言われて、少し姿勢を正す。

いや、だってさぁ。

人様のメールですよ? それを見ちゃってる訳ですよ。

仕事のやり取りならいいけれど、これがまた、桐生さんが言った通りに私信に使う人の多いこと!

社内出世トトカルチョならまだいい方で、中には……。

【昨日のドライブ楽しかったね。また誘っても良いかな?】て言う微笑ましいモノから……。

【妻にばれたらマズイ。頼むから結婚してくれなんて言わないで、ちゃんと聞き分けてくれ】なんて言う泥沼とか……送受信者わかりまくりに赤裸々なんですよ!

しかもこれは社長だけが見るそうで。
結局あれでしょ。査定に使うわけでしょ? と思うと憂鬱で。

だけど、シス管に絶対的な守秘義務が要求される理由も、かなり納得出来た訳で。

こんなことをしているのに誰にでも人当たりのいい桐生さんを、ちょっと尊敬かも。

半年に一回はやるって言ってたから、桐生さんは着任早々にこれをやった訳で、こういう人間関係なんかも熟知しちゃった訳でしょう?

私、この不倫カップルが目の前にいたら、とてもじゃないけどモジモジしちゃうよ?

「憂鬱なのは俺も一緒だから」

あ。そうですよね。これも仕事。
会社の物を使っちゃう方が悪いと言うことで……。

納得は難しいけど。

とにかく、なるべく本文を読まないようにデータを引っ張り出して行き、終わる頃には、オフィスには私と桐生さん、そして浅井主任の三人しかいなかった。

「精神的に疲れました」

私は窓にべったり張り付いて外を見つつ、紙ベースに落とした記録を数えている桐生さんに呟く。

「これはさすがに週末じゃないとできないね。疲労が激しい」

これで明日休みじゃなきゃ大変ですよ。

「私、タイムカード押しちゃいますね」

そう言って、フラフラとブースを出ていく私に、浅井さんが笑顔になった。

「あちゃぁ。今日はシス管より残業か」

「珍しいですね。浅井主任が残っているなんて」

「ちょっとね、苦情処理」

タイムカードをスキャンしつつ、目を丸くして振り返る。

「ヘルプデスクでクレームなんですか?」
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