雪降る夜に教えてよ。
「優秀なんだけど不躾な新人がいるからね~」

加藤くんか。

「主任。私は部下なんですから、そんなこと思っていても言わないものです」

「や~。優秀な部下を桐生マネージャーに取られたからね~。穴埋めは痛いよ」

その言葉に、桐生さんがパーテーションから顔を出す。

「あんな時に怪我して入院する方が悪いんです。おかげで引き抜きやすかったですが」

「あれは不可抗力だよ~」

浅井さんは頭をかいてから、キーボードを叩き始める。桐生さんも楽しそうにそれを眺めてから私を見た。

「秋元さん。夜遅いから送るけど、先に下に降りていてもらえるかな?」

「あ。有り難いですけど、先にって?」

「最後の一枚足りない」

「じゃあ、私が印刷室に行きますから、印刷お願いします」

「え! ダメダメ。君、退勤を押したでしょ」

「そんな、十分とかかる訳じゃないんですから」

そう言って、オフィスのドアを開けた。

ほとんどの人が帰ってしまった廊下は、ところどころに点いている非常灯の明かりが光源。

緑色の廊下はかなり奇妙だ。

そう思いながら歩いていると、遠くで雷鳴が聞こえてえ立ち止まる。

やだな。私、雷の音が嫌いなんですけど。

ガチャリと印刷室のドアを開け、電気のスイッチを押す。

資源節約の意味も兼ねて、紙での印刷はあまり行われないうちの会社。
実用重視で殺風景な印刷室は、かなり簡素な作りをしている。

入ると、コピー機と印刷機とを見比べた。

さっきは枚数が多かったから印刷機を使ったけど、一枚くらいならコピーの方かな?

見ていると、コピー機の受信マークが点灯する。
でも、一向にコピー機が動く気配がない。

確認してみてコピー用紙のトレイが空っぽで肩を落とした。

本当に、少ないなら補充くらいしておいてほしい。

でもまぁ、コピー機はあんまり使ってないから仕方ないと言えば仕方ないかな。

溜め息をつきながら、印刷室に隣接した倉庫に入る。

倉庫は印刷室に輪をかけて殺風景。中央にぶら下がってる裸電球をつけ、用紙を探して印刷室に戻る。

用紙を半分くらい補充してから、受信コピーのボタンを押した。

以前、丸々補充して、紙詰まりを起こしたので慣れたものです。

残りの用紙は……倉庫に戻しておけばいいかな。
そう思って倉庫に向き直り、ドアを開けた瞬間、背後から誰かに突き飛ばされて膝をついた。

「……っ!!」

打ち付けた膝が痛い。

痛みを堪えながら振り仰いだ先に、少年のような笑顔の加藤くんがいた。
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