雪降る夜に教えてよ。
「……桐生さんも縁故雇用と言うことなんですか?」

呟くと、彼の肩の力が抜けた。

「お前、さっきのちゃんと聞いてたか? 縁故雇用は今年度からのスタートで、そもそも、俺は別件でここに誘われて途中入社」

「引き抜きにあったんですよね」

「そうとも言う」

「前の会社はどこだったんですか?」

「知らないの?」

んー……それを正直に言ってもいいものか。
たいして興味なかったんで覚えていませんとか。

「はぁぁ……」

桐生さんは聞こえるように、わざとらしく大きな溜め息をついた。

「本気で興味対象外だったんだな俺って」

あ。かなりあっさりとバレた。

「前は親族関連の会社にいたんだよ」

「おもしろかったです?」

「面白かったら移るかよ」

乱雑になった言葉に視線を逸らす。

ま、そうでしょうね。たとえ面白くない仕事でも、それなりにやりがいがあれば辞めはしないでしょう。

しかも、今のこんなご時世じゃ、再就職だって大変だし。

「や。でも、ある意味では面白かったかな?」

「どんな風にです?」

桐生さんを見ると、少し皮肉げな笑み。

あー。斜に構えて面白がってたんデスネ。

「能力のある奴はそうでもないが、なんの才能もないおべっか使いってのは、色んな国にいるんだよ」

久々に辛辣だなぁ。

「日本では、虎の威を借りる狐っていうのかな? 自分の才覚で立てない奴は、すぐ何かの威光に縋ろうとする」

「それが嫌で、飛び出したんですね」

「自分の実力が、どれ程のモノか試してみたかった」

それはすごい自信家の言葉だ。

「珍しくないか? 俺について聞くなん……」

赤信号で車を停めた桐生さんは、私を見て眉をひそめる。

「なんで笑ってる?」

「いつも通りの桐生さんに戻ったなと思って」

「なに?」

「いつも通りになったと言ったんです。青ですよ」
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