雪降る夜に教えてよ。
初夏
*****
オフィスに広がるキーボードを叩く音。
音量1に設定されている内線の音と、静かになされる応答の声。
きっと外は炎天下なんだろうと思いつつ、仕事してるなって気分。
そして私のパソコンから、何故か魔法少女がステッキを振ったような“キュルリラリン”と可愛らしい音が鳴った。
またいつの間にか設定され直されているメール受信の音。
『なんて乙女チックで可愛らしい音なのだろう』と私が喜ぶはずがない。
「桐生さん。私のパソコン、勝手に設定変えないで下さい」
「……可愛いのに」
未練がある声を出さない!!
「自分のに設定してください。私のパソコンじゃなくて」
「や。二十九にもなるって言うのに、それはないでしょ」
二十九になる大人が、会社用とは言え、悪戯を仕掛けるのもいかがなものか!?
とりあえず、メールを開けながら溜め息をつく。
【秋元ちゃん。忘れてるでしょうけどお昼だよ~。また行きそびれるよ】
早良さん。貴女はシス管のタイムキーパーですか。
「お昼だそうです」
「あ。早良さんからか」
桐生さんは腕時計を見てから片眉を上げた。
「ん~。十四時からミーティングだしな。秋元さんは行って来て」
「……お昼抜きだと力がでませんよ。ささっと食べてしまえばいいのでは?」
「君は僕の母親か?」
「こんな聞き分けのない子を、育てたつもりはありません」
「そこ、普通はこんな大きな子を産んだ覚えがないって言わないか?」
奇妙な顔をする桐生さんを眺める。それは言うかもしれない。
とりあえず、立ち上がる様子はないから、パソコンにセキュリティをかけて席を立つ。
パーテーションから出て、にこやかに手を振る早良さんに近づき、いきなり頭を叩かれた。
「……痛いです」
「こっちは怖いわ! 祟りが起きそうで」
祟りって……どういう意味ですか。
「とにかく。あんたはもうちょっと柔らかい無表情になりなさい!」
なんか言ってること、無茶苦茶なんですが。柔らかい無表情って?
「今日は天気もいいし、外にランチ食べに行こう」
ぐいぐいと引っ張られて、歩き出すしかなかった。
オフィスに広がるキーボードを叩く音。
音量1に設定されている内線の音と、静かになされる応答の声。
きっと外は炎天下なんだろうと思いつつ、仕事してるなって気分。
そして私のパソコンから、何故か魔法少女がステッキを振ったような“キュルリラリン”と可愛らしい音が鳴った。
またいつの間にか設定され直されているメール受信の音。
『なんて乙女チックで可愛らしい音なのだろう』と私が喜ぶはずがない。
「桐生さん。私のパソコン、勝手に設定変えないで下さい」
「……可愛いのに」
未練がある声を出さない!!
「自分のに設定してください。私のパソコンじゃなくて」
「や。二十九にもなるって言うのに、それはないでしょ」
二十九になる大人が、会社用とは言え、悪戯を仕掛けるのもいかがなものか!?
とりあえず、メールを開けながら溜め息をつく。
【秋元ちゃん。忘れてるでしょうけどお昼だよ~。また行きそびれるよ】
早良さん。貴女はシス管のタイムキーパーですか。
「お昼だそうです」
「あ。早良さんからか」
桐生さんは腕時計を見てから片眉を上げた。
「ん~。十四時からミーティングだしな。秋元さんは行って来て」
「……お昼抜きだと力がでませんよ。ささっと食べてしまえばいいのでは?」
「君は僕の母親か?」
「こんな聞き分けのない子を、育てたつもりはありません」
「そこ、普通はこんな大きな子を産んだ覚えがないって言わないか?」
奇妙な顔をする桐生さんを眺める。それは言うかもしれない。
とりあえず、立ち上がる様子はないから、パソコンにセキュリティをかけて席を立つ。
パーテーションから出て、にこやかに手を振る早良さんに近づき、いきなり頭を叩かれた。
「……痛いです」
「こっちは怖いわ! 祟りが起きそうで」
祟りって……どういう意味ですか。
「とにかく。あんたはもうちょっと柔らかい無表情になりなさい!」
なんか言ってること、無茶苦茶なんですが。柔らかい無表情って?
「今日は天気もいいし、外にランチ食べに行こう」
ぐいぐいと引っ張られて、歩き出すしかなかった。