雪降る夜に教えてよ。
「マネージャー……ちょっと失礼じゃないですか?」

「……や。ごめっ!! だ、だけどさっ」

笑いながら片手を上げる桐生さんに背を向ける。

かまってられるか!

「待って!」

待てと言われて待つ人はあまりいないと思います。

「だから、待てって」

唐突に腕を掴まれて、また足元が滑り、ひっくり返りそうになって……。

バフッとまた何かに支えられる。

頭上を睨むと、やはりビックリしたような桐生さんの顔。

掴まれて引き戻されたはいいけど、すっぽり腕の中に納まってしまっていた。

「……君は、本当に軽いね」

「だから、失礼ですよ」

引き剥がして歩きだすと、今度は隣についてくる。

「仕方ないでしょ。風に吹っ飛ばされる人なんて、滅多に見ないんだから」

「私だって滅多に吹っ飛ばされません!」

「そうだろうね。そんなに頻繁に飛ばされてたら身がもたないよ」

ん? なんか、今、論点がズレたような?

「台風がきたら大変だ」

何か変なことを言いながら、どこか真面目に頷いている桐生さんを、どうしたものか……。

「いや、あの?」

「それとも普段は重りでも持っているとか?」

顔だけは真剣に呟いた彼に、頭を抱えそうになる。

「そんなこと。あるはずないでしょう!」

「だろうね。じゃ、どこに食べに行く?」

はい? つい、微笑みを浮かべている桐生さんをまじまじと眺めた。

「いつ、どこで、一緒にお食事をする、お約束しましたか?」

「ん? 今?」

「今の会話の中で、いつそんな話になったんです!」

「まぁまぁ、落ち着いて。人間お腹が空くと、怒りっぽくなるものだよ」

「逆なでしているのはマネージャーでしょう!」

「あれ。そうかな?」

首を傾げてとぼけている彼を置いて、私はズンズン歩いていく。

「だから、待てって。どこに行くのさ」

私は桐生さんの姿を横目で睨む。

高そうな黒のロングコート。マフラーは深いワインレッド。
濃藍に銀のストライプのスーツは間違いなくオーダーメイド。
ボタンダウンのシャツにお洒落な結びのネクタイ。

少し考えてから、何も言わずに近くのラーメン屋さんの戸口を開いた。
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