雪降る夜に教えてよ。
席に戻ると、不在にしていた間に届いたメールに目を通して、残った仕事に取り掛かる。

しばらくすると、背後で桐生さんの小さな笑い声が聞こえた。

何だろうと思って振り返ると、にっこり笑った桐生さんと目が合う。

「秋元さん。これからミーティングに行ってくるから、帰りは十六時ね」

そう言って分厚い書類を差しだしてくるから、それを見下ろした。

「今日中にお願い」

「……英文ですね」

「そう。SEの方にも配るから、日本語訳もお願いします」

そう言いながら、清々しい笑みを浮かべてブースから出て行った。
なんか、久々に企み笑顔だったんですが。なんだろう?

とにかくとても重たい、書類の束に顔をしかめる。

これで残業確定だね。






***



一つの事で打っても打っても終わらない仕事は、セキュリティの強化時期のようだ。

「後何枚残ってる?」

給湯室でコーヒーを入れてくれたらしい桐生さんが、カップを私のデスクに置きモニターを覗き込む。

「後……七枚くらいです」

「俺、終わったから五枚貸して」

そう言いつつ、桐生さんは書類を引き抜いて行く。

今、“俺”って言ってた?

「もしかして、またシス管が最後ですか?」

「そっ! また最後になりましたよ~」

桐生さんは書類を眺めながらニッコリと笑っている。

「何企んでるんですか」

「人聞きが悪いな。策略と言ってくれ、策略と」

一緒じゃん! 策略も企みも謀も同じだと思うんだからね!

もうー……真剣にキーボードを叩く姿はいつ見ても紳士なんだけどな。
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