雪降る夜に教えてよ。
なんだか男をアピールしている姿って、何となく想像しにくいというか……。

そう考えて、仕事中にこんなことを思い出している自分に失笑した。

「早良さんが余計なこと言うから……」

「はい?」

ビックリしている桐生さんに私もビックリして、慌てて手を振る。

「なんでもないです」

だけれど慌てているのはバレバレで、桐生さんはお得意の片眉だけ上げる笑顔で小首を傾げた。

「仕事モードの時に、慌てるって珍しくない?」

「に、人間ですから……たまには慌てることもあると思うんです」

「君に? たまにある?」

「そうです!」

なんとか桐生さんのからかい半分の質問をかわし、難解な書類を終わらせて腕時計を見る。

「もう、二十二時ですか」

「ちゃんと送るよ」

「や。おかしいので電車で帰ります」

「は!?」

明らかに驚いた声に顔が赤くなりかけた。またなんか、おかしな事言ったかもしれない。

「なな、なんでも……」

慌てて手を振る私を桐生さんはじっと眺め、スッキリした長い指でタイムレコーダーを示した。

「まず、退勤」

あ。はい、そうですね。

パソコンの電源を落として、タイムカードをスキャンする。

ギクシャクした動きでバックを手に取ると、勢いよく振り返って、桐生さんにぶつかった。

「……っ!!」

「うわっ……!」

思わず避けようとして、私が後ろに転びかけたのを助けようと、桐生さんも腕を出しかけて……。

結局ドサリと二人共倒れした。

「あのねー。どうしたの、いったい」

倒れたのを引き起こされて、正座して向かい合う。

「仕事中の君らしくない」

それは自分でも重々承知してます。

承知しているからって、どうにかなるわけでもないんだろうけれど、それでもわかっています。

「仕事のこと? プライベートのこと?」

ちらっと見上げた桐生さんは、腕を組んで、どうやらお兄ちゃんモード。

「……よし」

よし?
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