雪降る夜に教えてよ。
「飲みに行くぞ!」

「えぇ!? や。そこまでしなくても……」

「どうせ明日は土曜なんだし、お前が酔っても問題ないって」

や。ただでさえ口が滑りまくってるのに、お酒なんて入ったら……。

「実力行使にでてほしいのか?」

冷めた声に頷くしかなかった。

こんな落ち着きがない私を、桐生さんは見たことがないだろう。

そりゃそうだろう。私だって驚いている。ネックは判っているんだ。

早良さんの言った『精力絶倫』と言う言葉。
早良さんは単に仕事がって意味で言ったのかもしれないけど。
いや。もちろん、桐生さんは仕事熱心で公私混同も、たまにしかしない。

でも、なんでか私みたいなのに構って来ていて、誰かとお付き合いしてるところは見たことがない。モテモテなのに。

でもアレでしょう? 男性って、そういうセクシャルな事がお好きでしょう? 解んないけど。

でも桐生さんは、きっとそういう事も手慣れてるだろうし“付き合う”イコール“セックス”ではないだろうけど、そういう“対象”に、私がなっているものだと思うし。

今まで何故、そこまで考えなかったのか不思議だけど。
そもそも、誰ともお付き合いなんかする気もなく過ごしてきたし。

でも、いつも桐生さんは気をつけろと忠告して来ていた訳で、やっと実感したというか。とか考えたら頭が混乱して来て。

そして改めて考えてても、支離滅裂な訳で。





***



半ば強制的に連れてこられたお店で、腕を組んでこちらを見ている桐生さんなんていうのは、ちょっと……かなり困る。

「頑固だ」

厳しい口調で言われて、首を竦める。

「仕事かプライベートかくらいはハッキリしろ」

そう言われて、ますます首を竦める。

連れてこられたのは、桐生さんの従兄弟さんが経営しているバーの一つで、何故か全席個室の薄暗い場所だった。
< 93 / 162 >

この作品をシェア

pagetop