雪降る夜に教えてよ。
もう、基本として飲め!って感じ。

「プライベート……」

なんですけれども……小さく呟くと、桐生さんは腕を解き、首を傾げた。

「……にしては、今回、妙な取り乱し方だったな?」

私自身がすでに妙ですから。もうそれは自分でも自覚症状アリですから。

「お前、いつも自分のプライベートなことは、逆に冷静になってるじゃん」

あー……この人が鋭いことを少し忘れてた。
ちらっと私を見て、桐生さんは片眉を上げる。

「そういえばな、昼休憩の後、早良さんから妙なメールが来たぞ?」

早良さんから? なんて?

「お前が、俺を男とは認識してないと言う内容だったけどな」

やだー。今、そこに話の流れを持って行かないで下さい~。思わずテーブルに顔を伏せた。

「で、ちょっと腹いせに残業させたんだけど」

え……腹いせ!? ぱっと顔を上げると、涼しい顔の桐生さんと目が合った。

「……見た感じだと、それで怒ってるのと、違うみたいだな?」

勝手に人の表情を読まないで下さい!

「プライベートの事ですから。桐生さんには関係ありません!!」

やけくそになって目の前のカクテルをクッと一口飲むと、表情を取り繕ってそっぽを向いた。

「あのさ?」

妙に静かな声に、なんとなく怖くなって俯く。

「プライベートで慌てるお前ってさ、たいがい俺が絡んでると思うんだけど」

うん。やっぱり鋭い。っていうか怖い。

「でさ……」

「はい」

「お前、表情にでなくても、目に感情出てるって気付いてる?」

それはまったく気づいていません。

自分の顔を常日頃鏡で見ているわけでもないのに、そんなことに気付く人がいるとは思えません。

そういう問題じゃないとは知っているんだけど、ちょっと現実逃避させて!

桐生さんは溜め息をつくと、ソファに寄り掛かった。

「早良さんに何を言われたの。あの姉さんの事だから、とんでもないことだろ」

「や。私がとんでもなく鈍感だったというか」

「それは知ってる」

冷静に言われて、少し情けなくなるんですが。

「お前、他人の感情の機微に関してはえらく敏感なのに、それが自分のことになると思い切り鈍感」

「今まで自分を、いろんなことで度外視してましたから……」

ぼそぼそと呟くと、桐生さんはすっと目を細めて唇の端だけ上げる。

「あー……なるほど」

なるほど。なるほどって?
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