雪降る夜に教えてよ。
桐生さんは自分の烏龍茶のグラスをずらして置くと席を立ち、何を思ったのか私の隣に座った。

や。できれば、目の前の方がよかったかな~なんて? それから彼はニッコリと微笑んで、私の肩に手をまわす。

こ、これはどうしよう。肩に普通に手を置かれてる時って、どう振る舞えばいいの?

「目が泳いでる」

いやだって……そう思ったら、その肩が引き寄せられ、同時に顎を上げられる。

「んっ……!」

唇が重なって、一瞬身を竦めた。

桐生さんの指がなだめる様に頬をかすめる。

目を閉じると、微かに震えた。

「息を吸って……」

下唇を食まれて、微かに口を開くと熱い舌が入り込んでくる。

絡み合い、混ざりあって、とろけそうになってしまう。

なんだかこういう事は久しぶりかも……。

「あー……コホン」

間近に聞こえてきた咳払いに目を開くと、桐生さんの後ろ側に裕さんの姿が見えた。

私は慌てて桐生さんから身を剥がす。

「そんなものはホテルか自宅でやれ」

呆れた様な声に、桐生さんも苦笑して振り返る。

「うちの小人ちゃんじゃ、まだ無理」

頬が熱くなってパチパチと瞬きを繰り返す。

それを見て、桐生さんは自分の胸に私を押し付けたから、思わずそのまま顔を埋めた。

「秋元さん隠れちゃったね」

「当たり前だ」

「俺が来るのを判っていて、そういう事をする隆幸が悪いな」

「……じゃないと、お前が何するかわからない」

「はいはい。じゃ、これはうちの子の新作。ノンアルコールだから、試してみて」

足音が微かに遠ざかってから顔を上げた。目の前に、少し楽しそうな桐生さんの顔。

「……俺、ちゃんとゆっくり行こうって言ったじゃないか」

言ってたかも……でも、でもね?

「何を言われたか、早良さんは歯に衣着せない人だからなんとなく想像つくけど、何言われようが自分でペースを守らないと。焦るんじゃない」

そう言ってニヤッとする。

「中学生じゃ、今みたいなキスは出来ないって。どうせそんな事言われたんでしょ?」

「……っ!」

笑い混じりのその言葉に、気付けば桐生さんを思い切り突き飛ばしていた。

突き飛ばしたら彼は席から転げ落ちたけれど、何事もなかったかのように元の位置に座りなおして、無言でフルーツを食べて始めた私を見て苦笑している。
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