神様、どうか。
駅に着くと、さすがに土曜日ということもあり人で溢れている。
どうか、社長が無事に新幹線に乗れますように。
電光掲示板を見ながら、タクシーの中で調べた新幹線の時間を再確認していると、
「すまないが、切符買ってて貰っていいか?姉貴に電話かけてくる。」
社長は私にそう告げると、財布を渡して去って行ってしまった。
いきなりのことに、財布を握ったまま少し戸惑ってしまったが、そんな場合じゃないと頭を切り替えて販売機へと急ぐ。
社長が伝えた通りの駅名で切符の購入画面をタッチする、が。
ああ、最後の決定ボタンが反応してくれない。
「ああ、もう!ちゃんと反応してよ。」
「体から変な電磁波でも出てるんじゃないのか。」
後ろを振り返ると、電話を終えた社長が呆れた顔をしながら画面を操作する。
もう、社長が大変なときなのに、私はなんて役立たずなんだろう。
地味に一人落ち込んでいると、社長が頭上でふっと笑った。
「君を見ていると、なんだか和むな。」
そう呟くと社長は私の手から自分の財布を抜き取っていく。
今まで、張り詰めていた社長を取り巻く雰囲気が少しだけやわらいだ気がする。
そして、画面に表示されているのは、大人2人分のチケット。
よく分からないまま、社長の背中を追いかけて新幹線に乗り込んだ。