神様、どうか。
この中で赤木さんの次に最年長な私は、カウンターで一人熱燗をチビる。
ホッケをほじくりながら座敷を見ると、やる気のない後輩山中ちゃんが、うちの課のホープ塩崎君に迫り寄ってるのが見える。
山中ちゃんは入社3年目、塩崎君は2年目で彼女にとっては年下だ。
山中ちゃん、塩崎君の左手薬指を見なさい。しっかりと幸せの象徴が嵌ってるでしょ?
塩崎君は、高校から付き合っていた彼女と『大学を卒業したら結婚する』と約束していたらしく、入社1年目で入籍した強者。
塩崎君の薬指できらりと光る指輪は、積極的に攻撃をかける山中ちゃんを牽制している。
ふと、自分の薬指を見る。
がら空きだ。
「おばちゃん、熱燗もう1本。」
人生には呑んでないとやりきれない夜もある。