神様、どうか。


『やっと仕事がひと段落ついたよ。』

「…お疲れ様です。」


未だ道子に片腕をホールドされたまま話す。


『今から会えるか?』


すぐにでも返事したいのに、二人の強すぎる視線に言葉も出ない。

どうしよう…。


「彼氏なら紹介しなさい。」


そのとき、ずっと黙っていたお母さんが口を開いた。

そんなの無理だって言おうとしたけど、お母さんの顔があまりにも真剣で断れない。


「あの、今母と妹がこっちに来てて…。」

『…九州の?』

「…はい。」


少し間があって答えた社長の声は、少し驚いた様子。


『今どこだ?』

「銀座のカフェで一緒にいます。」

『すぐ行くから、俺が来ること伝えといてくれ。』


それから私がお店の名前を伝えると、社長はすぐに電話を切った。


ーー挨拶、してくれるんだ。


親に挨拶してもらえないほど、別にいい加減な付き合いをされているとは、これっぽっちも思っていないけど。

でも、やっぱり親に挨拶ってハードルが高いイメージだ。


そこを軽々と越えてくれたことが嬉しい。

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